<社説>夏の甲子園中止検討 球児の夢つなげる模索を


社会
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 新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、兵庫県西宮市の甲子園球場で8月10日に開幕する予定だった全国高校野球選手権大会が中止の方向で検討されている。夏の甲子園大会出場を目指して努力している高校球児たちの心境を思うと、やり切れない。

 夏の甲子園は1915年に大阪・豊中で第1回大会が開かれた。球児の憧れの舞台である甲子園は24年の第10回から使用されている。2年前に節目の100回を迎え、今年が第102回となる。
 大会が中止されたのは米騒動が起きた18年の第4回、戦局悪化の影響による41年の第27回と過去2回あり、42~45年は戦争で中断している。もし今回中止となれば戦後初めてのことだ。
 夏の大会とともに人気を誇る3月の選抜高校野球大会(春の甲子園)も今年は新型コロナの影響で史上初めて中止された。春は日本高野連が無観客での開催方針を一時示したが健康・安全面などへの配慮から断念した。関係者のみならず多くの国民が今回の判断にも注目している。
 高野連は20日に運営委員会で夏の開催について協議する。ただ緊急事態宣言が14日に39県で解除された後も部活動再開のめどが立たない地域があり、地方大会を8月上旬までに終えて代表校をそろえることは難しいとみている。
 部活動は当然、学校の再開が前提となるが、宣言が継続されている地域などはまだ見通せていない。再開後は授業が優先されるが、沖縄など既に高校の夏休みの大幅短縮を打ち出した地域もある。
 猛暑下で試合をする選手の体力や練度を短期間で高めていくことも難しい。何より甲子園大会に伴う移動、宿泊などの感染リスクをどう考えるか。開催に困難な課題が多いことは十分理解できる。
 全国高等学校体育連盟(全国高体連)は4月に夏の全国高校総合体育大会(インターハイ)の史上初の中止を決めた。他の学生スポーツ大会の中止も相次ぐ。高校野球だけが感染リスクを度外視してよいわけではもちろんない。
 ただ甲子園の選手たちの奮闘に、毎年多くの国民が古里や帰属意識を重ねて特別な感情を寄せていることも事実だ。沖縄では苦難の道のりや日本本土への複雑な思いも胸に、郷土の代表へ声をからしてきた歴史がある。
 中止の検討については関係者の間にもさまざまな反応がある。やむを得ないという声がある一方、感染拡大が少し落ち着いた今、決定するのは時期尚早ではないかとの意見も上がっている。
 沖縄を含む各地の高野連は甲子園大会が中止されても地方大会は開く方向で検討している。本大会の開催も最後まで模索した方がいい。春に検討した無観客方式、あるいは時期や規模、運営方法変更などの余地はないのだろうか。球児たちの夢をつなげる方向で、議論を尽くしてほしい。