<社説>知事の平和宣言 ぶれぬ民意に添う気概を


社会
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 戦後75年の沖縄全戦没者追悼式で玉城デニー知事は、2度目の平和宣言に臨んだ。冒頭「沖縄のこころ・チムグクル」の世界への発信と共有を呼び掛けた。その思いは共に引き続き胸に刻みたい。

 とはいえ、宣言に盛られた言葉に、自らが負う使命を込めたのか。つづられた言葉があまりに平板すぎないか。そう感じたのは名護市辺野古で強行される新基地建設についてのくだりである。
 辺野古・大浦湾周辺の海には絶滅危惧種262種を含む5300種以上の生物が生息する。その豊饒(ほうじょう)さは沖縄にとって希望の場所であり、先祖伝来のかけがえのない財産であることも認識を共有する。
 しかし、新基地建設について知事はこう結んだ。「この自然豊かな海や森を次の世代、またその次の世代に残していくために、今を生きる我々世代が未来を見据え、責任を持って考えることが重要です」
 2019年2月の辺野古の賛否を問う県民投票は投票総数の7割の県民が辺野古埋め立てに反対票を投じた。この民意を背に知事は昨年の平和宣言で、こう言及したはずだ。
 「私たちは、普天間飛行場の一日も早い危険性の除去と、辺野古移設断念を強く求め、県民の皆さま、県外、国外の皆さまと民主主義の尊厳を大切にする思いを共有し、対話によってこの問題を解決してまいる」
 県民投票からこれまでに民意に揺らぎが生じたことがあったろうか。
 本紙が今月17日に報じた県民調査でも普天間飛行場の返還・移設問題の解決策については「無条件に閉鎖・撤去」が最多の30・28%に上った。「県外に移設」が19・72%、「国外に移設」が19・52%と続き、無条件閉鎖・撤去や県外・国外移設を求める意見が計69・52%と約7割を占めた。県民投票と変わらぬ結果だ。
 県民が直面する困難な課題に向き合う知事自身の決意はどこへ行ってしまったのか。戦後沖縄の原点である「慰霊の日」に際して、民意に添う気概が感じられない。
 昨年の宣言は日米地位協定の改定を含め、基地問題に約750文字が費やされた。それに対し今回は約340文字にすぎない。後退した感は否めない。
 戦後75年を経た現在も国土面積の約0・6%にすぎない沖縄に米軍専用施設の約70・3%が集中している。基地あるがゆえの米軍人・軍属による事件・事故は後を絶たない。航空機騒音や有害性が指摘される有機フッ素化合物PFOSによる水質汚染など環境問題も顕在化する。
 こうした被害のさらなるしわ寄せが今の辺野古への新基地建設だろう。
 コロナ禍にあって、社会のありようも揺らぐ中、追悼式も規模の縮小を余儀なくされた。それだけに揺るがぬ民意と共に戦争を拒み、平和を希求する「沖縄のこころ」を確固としたものにしたい。