<社説>敵基地攻撃の危うさ 国民の命、米国の手中に


社会
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 一気にきな臭くなった防衛論議を強く警戒する必要がある。政府は地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」計画に代わるミサイル防衛論議を開始した。最大の焦点は、敵基地攻撃能力を持つかどうかだ。この能力は、敵のミサイル発射拠点などを直接破壊できる兵器の保有を意味する。

 保有を決めれば、日本の安全保障政策は大きく変わる。防衛政策の根幹である専守防衛の原則が形骸化するからだ。政府はこれまで保有は憲法上、許されるとする。しかし9条をはじめとする憲法の理念から逸脱しており、認められない。専守防衛は、アジア太平洋戦争で周辺諸国に多くの犠牲を強いた日本が過ちを繰り返さないというメッセージにもなってきた。この姿勢を放棄することになる。
 自民党は保有推進派が大勢を占め、安倍晋三首相は前のめりである。安倍首相はアショア断念を「反転攻勢としたい。打撃力保有にシフトするしかない」と周囲に漏らした。外交と安保政策の包括的な指針である国家安全保障戦略を2013年12月の閣議決定以来、初めて改定する方向だ。年内改定を目指す。
 注意すべきはミサイル戦争を巡る日米の運命共同体化である。保持すれば、日本が盾、米国が矛を担う従来の役割分担は日本が矛に合流する。
 本紙は昨年10月、米国が沖縄はじめ日本列島に、核弾頭を搭載可能な新型中距離弾道ミサイルを2年以内に大量配備する計画があると報じた。このミサイルは、迎撃型のアショアとは異なり攻撃型で、安倍首相が考える「打撃力」と一致する。米国の計画を呼び込むためにアショアを断念したと疑いたくなる。
 背景には、米中ロを中心とする新冷戦がある。昨年8月、米ロによる中距離核戦力(INF)廃棄条約が破棄された。中国が中距離核戦力を持ったことで短・中距離弾道ミサイルの開発競争に突入した。
 米国の狙いは、中国包囲とロシアへの対抗だ。当然、それを知っている中ロは、核弾頭を搭載できる短・中距離ミサイルを既存の米軍の施設や新型ミサイル施設に向ける。攻撃型ミサイルの配備は、日本列島が核戦争の最前線に置かれることを意味する。
 非核三原則を国是とする日本に対し、米国は「核弾頭は搭載しない」として配備を試みるかもしれない。しかし米国は自国の核兵器の所在を明かさない政策を取っている上、日本は在日米軍に対し核査察の意思や能力を欠いている。日本政府が米国の言葉を信じても中ロは信じない。日本は間違いなく標的にされる。
 新冷戦下での敵基地攻撃能力保有は、「抑止力」や「防衛」の名の下で米核戦略の一翼を担うことを意味する。国民の命を米国の手の中に委ねるのと同義だ。米国の中ロ敵視政策に寄り添うのではなく、攻撃の必要性をなくすよう、火種を取り除く外交こそが真の安全保障だ。