<社説>敵基地攻撃自民提言 憲法理念に逆行する暴走


社会
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 国民的世論を喚起し自民党の暴走を止めなければならない。敵基地攻撃能力を保有するという提言のことである。

 自民党の国防部会と安全保障調査会は「相手領域内で弾道ミサイルなどを阻止する能力」のほか、地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の代替策などを求める提言を、きょうにも安倍晋三首相に提言する。
 「敵基地攻撃能力」や「打撃力」という具体的表現は避けたが、こうした能力の保有を事実上、促す格好だ。提言の内容は、戦力の不保持や専守防衛などをうたう憲法の理念から大きく逸脱する。政府はこれまで憲法上、保有は可能と解釈しているが、憲法の平和主義を破壊するもので、到底許されない。
 憲法学者の高良沙哉沖縄大教授は「敵基地攻撃能力を持つとして、誰が指揮し、どう抑止するかは憲法に規定がない。最高法規の憲法に軍事力抑止の規定がないことは、憲法が軍事力による自衛を考えていなかったからだ」と指摘する。この原則に立ち返るべきだ。
 問題は憲法だけではない。保有は日本の安全保障政策の大転換となるだけに、政治的影響も非常に大きい。米国が敵視する北朝鮮や中国などに対し、日本は米国の盾だけではなく矛も担うというメッセージを対外的に発することになる。それは、米国が敵視する国々から日本も標的にされることを意味する。
 米中関係が悪化する中、中国包囲網の一環として、核兵器が搭載可能な新型中距離ミサイルを、沖縄はじめ日本列島に配備する計画が米国にはある。この新型ミサイルは、アショアのような迎撃型と異なり攻撃型だ。敵基地攻撃能力と符合する。攻撃型ミサイルを配備すれば、米中関係が悪化すればするほど、日本も当事者として有事に巻き込まれる可能性が高くなる。
 沖縄は攻撃兵器の配備先として真っ先に狙われる恐れがある。敵基地攻撃能力として使用の可能性が高いとされ、既に導入が決まっている長距離巡航ミサイル導入案は南西諸島防衛を進める中で浮上した。既に沖縄配備が検討されている。防衛省は敵基地攻撃への使用を否定しているが、射程を延ばして攻撃目的も兼ねて配備される可能性が指摘されている。
 自民党から提言を受けた政府は今後、国家安全保障会議(NSC)で、計画を断念したイージス・アショアの代替となるミサイル抑止策の協議を進める。これをにらみ、国民的世論を高め、敵基地攻撃能力の保有を阻止する必要がある。
 保有は、米中の軍拡競争に日本が加担することにもなる。それは平和憲法の理念に逆行する。米国による中国敵視政策に乗っかるのではなく、憲法の平和主義の理念を生かし、周辺隣国と友好関係を築くことこそが、憲法が求める日本のあるべき姿だ。