<社説>広島原爆投下75年 核禁止条約発効に全力を


社会
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 広島の原爆投下から75年を迎えた。当時16歳の女性の証言によると、美しい朝だった。閃光の後、意識を失い、気が付くと黒い雨が降っていた。

 原爆の悲惨さを体験した人々が少なくなった今、私たちはありったけの想像力を働かさなければならない。
 核兵器の保有や使用を禁じる核兵器禁止条約に、唯一の被爆国である日本は批准すらしていない。安全保障を米国の「核の傘」に依存する考えは幻想である。被爆から75年に際し、日本が取り組むべきは核兵器禁止条約を批准し発効させることである。
 核戦争の脅威にさらされた東西冷戦終結から30年。世界は自国第一主義が台頭し、核のリスクを増大させている。米国は中距離核戦力(INF)廃棄条約から離脱し、米ロ間に唯一残された新戦略兵器削減条約(新START)は来年2月に期限を迎える。
 核戦争などによる地球滅亡の日を深夜0時に見立てた「終末時計」は、今年過去最短の「100秒前」になった。
 「核があるのになぜ使わないのか」と言ってはばからないトランプ米政権は、広島型原爆の3分の1程度の爆発力を持つ小型核を実践配備した。ロシアは自国に飛来するミサイルが核搭載でなくても、核で応戦する可能性があるとの政策を発表した。
 中国は、敵が発射した核ミサイルを核兵器で反撃する早期警戒システムを備えているという。北朝鮮は核保有を正当化し、一方的な核放棄に応じない立場を強調する。
 非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)による注目すべき試算がある。米、英、仏の核軍備費を新型コロナウイルス対策に回すと、集中治療室のベッド50万床、人工呼吸器7万5千台が用意でき、医師12万5千人、看護師22万人を確保できるという。
 核兵器は絶対悪である。1発でも使用されると破局への引き金になる。にもかかわらず1300発以上ある。そして監視システムの誤警報や誤った政治判断によって核が使われるリスクを抱えている。
 米国統治下にあった沖縄で1959年6月、核弾頭を搭載したナイキ・ハーキュリーズミサイルが誤射され那覇市沖の海中に突っ込んだ。62年のキューバ危機の際、沖縄の米ミサイル部隊に核攻撃命令が誤って出され、土壇場で発射が回避されたこともある。
 「安らかに眠って下さい。過ちは繰り返しませぬから」。広島の平和記念公園の原爆死没者慰霊碑の碑文である。
 75年前の美しい朝、人々は「リトルボーイ」の火の玉によって一瞬のうちに蒸発し、黒焦げの炭の塊になった。核廃絶の道を後退させたら、犠牲者に「安らかに眠って下さい」などと言えるだろうか。
 核兵器禁止条約は、発効に必要な批准数が残り10カ国・地域となった。日本は条約を批准して発効させ、核兵器廃絶に全力を尽くすべきだ。