<社説>下地島空港 軍事利用は認められない


社会
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 自民党国防議員連盟の会合で、南西諸島の防衛力強化を理由に宮古島市の下地島空港を自衛隊が利用すべきだとの意見が相次いだ。同空港の軍事利用を禁ずる国と沖縄県の覚書に反する主張である。民間利用による地域発展に取り組んできた地元や関係者の努力に冷や水を浴びせるものでもある。到底容認できない。

 パイロット訓練飛行場として開港した下地島空港を巡って復帰前の1971年、当時の琉球政府と国が民間機以外は使用しないとの「屋良覚書」を締結した。内容は(1)琉球政府(県)が所有・管理し、使用方法は琉球政府が決定する(2)国は民間航空訓練と民間航空以外の目的に使用させる意思はなく、これ以外の使用を命令する法令上の根拠を有しない―というものだ。
 79年には県と国が交わした「西銘確認書」で、人命救助、緊急避難時など「やむを得ない事情のある場合を除いて、民間航空機に使用させる」ことを再確認した。安倍政権も2013年2月、空港の利用権限は「管理者である県が有している」との答弁書を閣議決定している。
 だが自民党国防議員連盟の会合で、最近の尖閣諸島周辺での中国公船の活動の活発化を挙げ「自衛隊の戦闘機が使える空港が那覇以外にない」「尖閣に近い」として下地島の自衛隊利用を促す声が出た。覚書と空港を巡る歴史的経緯を無視するものだ。
 河野太郎防衛相は「現時点で自衛隊が施設的なことに活用するという計画はない」と否定した。政府は約束を順守するよう、強く求めたい。
 住民の賛否が分かれる中、政府は16年の与那国への沿岸監視隊配備を皮切りに、南西諸島での陸上自衛隊配備を急いでいる。奄美や宮古にミサイル部隊や警備部隊を配置し、石垣でも計画している。中国の軍事力増強が念頭にあるが、自衛隊の配備加速と合わせて中国の航空機や艦艇の活動も活発化している。自衛隊強化がかえって緊張を高めていると言わざるを得ない。
 米中関係が悪化する中、米国には核兵器が搭載可能な新型中距離ミサイルを南西諸島に配備する計画さえある。過重な基地を抱える沖縄がこれ以上、有事のリスクを背負うことは許されない。下地島の自衛隊利用も同様だ。
 3千メートルの滑走路を持つ下地島空港は、軍事利用案が浮上するたび翻弄(ほんろう)されてきた。路線運休やパイロット訓練休止などの曲折を経たが、昨年3月には国内外と結ぶ格安航空会社(LCC)の拠点として新たに開業し、地域の活性化や生活を支える重要インフラとして再出発している。
 宮古島の観光客は近年飛躍的に伸び、13年度の40万人から18年度には114万人になった。コロナ禍で不透明感はあるが、県は24年度に160万人の目標を掲げる。下地島空港の民間利用拡大が観光・経済の発展にも不可欠であることは明らかであろう。