<社説>香港民主派への弾圧 自治の破壊は許されない


社会
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 民主化運動の萎縮を狙っているとすれば、悪質極まりない公権力の行使だ。香港警察は10日、民主派活動家の周庭氏と、中国に批判的な香港紙の蘋果日報などの創始者で民主派の黎智英氏らを香港国家安全維持法(国安法)違反(国家分裂扇動罪)の疑いで逮捕し、翌日に保釈した。

 国安法が7月1日に施行されて1カ月余り。懸念された事態が、これほど露骨に実行に移されるとは憂慮に堪えない。近代国家の進展の歩みを巻き戻すかのように逆行する自治の破壊は許されない。
 反政府活動を取り締まる国安法は6章66条から成る。国家分裂やテロ活動、外国勢力との結託による国家安全への危害など4種類の犯罪行為の処罰を規定する。まるで占領政策かと思わせるのが同法の付則にある。他の香港の法律と抵触する場合、香港国家安全維持法が優先すると明記しているのだ。
 そもそも法案全文ですら、公開されないまま全人代の常務委員会で採決され、間をおかず施行された。
 違反者の最高刑は無期懲役という重罰である。罪種と量刑を市民はあらかじめ明確に周知されない。そんな法律が頭越しに、不意打ち的に施行されるとは人権をおろそかに扱うにも程がある。適正手続きを欠いた目に余る立法だ。
 施行初日の7月1日、1万人以上が国安法に抗議するデモを決行し警官隊と衝突、約370人が逮捕された。うち10人は「香港独立」と書かれた旗を所持したなどとして国安法違反が初めて適用された。
 それを皮切りに中国は前近代的としか思えない施策を矢継ぎ早に打ち出している。人民解放軍指揮下にある準軍事組織の武装警察部隊を「観察員」の名目で香港に派遣し常駐させる計画という。
 国安法に基づき設立した「国家安全維持委員会」の初会合は特定の状況下で香港警察に捜査令状なしの家宅捜索などを可能にした。警察の判断だけで通信傍受が可能になるなど令状主義も機能しない。
 1997年に英国から主権が中国に返還された香港には社会主義の中国に資本主義を併存させる「一国二制度」が適用された。高度な自治や司法の独立が認められてきた。
 国家運営の方法が違うとは言え、何とか折り合いを付けてきた制度である。その下で民主主義や自由を享受してきた人々にとっては、これ以上の暗転はなかろう。
 香港を離れ、県内に住まいを求める人もいるという。苛政としか言いようがない。逃れる人の受け皿を県内でもつくりたい。
 米国の厚生長官が台湾を初訪問するなど無用な緊張感を生む動きもある。米中間の覇権争いに巻き込まれることなく、自由と人権の尊重を最高の価値秩序に置く主要国は今こそ協調すべき時である。中国で猛威を振るいつつある、価値秩序の破壊を座視しない決然とした意思を示したい。