<社説>菅氏が基地リンク論 沖縄振興の原点に戻れ


社会
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 菅義偉官房長官は、沖縄の基地負担軽減の成果として、那覇空港第2滑走路増設を挙げ「結果的には(沖縄振興と基地問題が)リンクしている」と述べた。

 次期首相に最も近いとされる菅氏の発言は「金と引き換えに基地を容認せよ」という「アメとムチ」の構図と重なる。この発言は容認できない。沖縄振興の原点に戻ることを強く求める。
 政府は公式に認めていないが、菅氏はこれまでも沖縄の基地問題と沖縄振興のリンクを容認する発言をしている。
 政府の沖縄振興は、日本復帰に向けた沖縄・北方対策庁を経て、1972年5月15日の復帰と同時に設置された沖縄開発庁が担ってきた。その後、内閣府沖縄担当部局に引き継がれている。
 沖縄振興開発特別措置法(沖振法)の条文のどこにも、基地問題と沖縄振興がリンクするとは書かれていない。沖振法の目的は「沖縄の置かれた特殊な諸事情に鑑み、沖縄振興計画に基づく事業を推進する等特別の措置を講ずることにより、沖縄の自主性を尊重しつつその総合的かつ計画的な振興を図る」ことにある。
 ただし、沖縄振興に責任を果たしていく開発庁の役割はあらかじめ限定されていた。前身の沖縄・北方対策庁設置に際し、防衛庁との間で覚書が交わされている。対策庁(後の沖縄開発庁)は復帰後、在沖米軍基地から派生する問題を扱えないように取り決められた。
 本来なら、米軍基地は沖縄振興・発展の最大の阻害要因である、との沖縄の声を重視し、「沖縄の自主性を尊重」すべきだ。しかし覚書に阻まれ、県や市町村が要望しても基地の整理縮小を前提とした振興計画を策定できなかった。
 地方財政法は「地方財政の健全性を確保し、地方自治の発達に資する」ことを目的としている。辺野古新基地建設反対という民意(地方自治)を無視して、基地建設と引き換えに予算をつける(リンク)ことは法の趣旨を逸脱する。
 かつて橋本内閣で普天間返還交渉に奔走した梶山静六官房長官を、菅氏は「政治の恩師」と呼ぶ。梶山氏は山中貞則、橋本龍太郎、小渕恵三、野中広務の4氏らと共に沖縄のよき理解者であった。
 とはいえ、梶山氏は国内の反発を恐れ普天間飛行場の移設先を県外ではなく名護市辺野古とする道筋をつけた。
 山中氏は沖縄振興の原点を、沖縄戦、米国統治と続く県民の苦難の歴史に対する「償いの心」と表現した。当時の橋本首相は、振興策は辺野古移設が前提かと問われ「二つの問題を一緒にされるのはとても悲しく聞こえる」という認識を示している。
 菅氏の基地リンク発言は「償いの心」を破棄し、辺野古新基地を容認するかどうかを迫り、結果的に沖縄を分断することにつながる。今こそ「恩師」らに学び、沖縄振興の原点に立ち返るべきだ。