<社説>菅政権と「負の遺産」 疑惑の解明から逃げるな


社会
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 7年8カ月に及んだ安倍政権の「負の遺産」が、就任したばかりの菅義偉首相を直撃している。首相は安倍政権の継承を強調しているが、歴代最長政権で噴出した多くの疑惑は残されたままだ。真相の解明から逃げるべきではない。

 磁気健康器具の預託商法を展開し、破綻した「ジャパンライフ」の創業者、山口隆祥元会長らが詐欺容疑で警視庁などに逮捕された。高齢者ら延べ約1万人から計約2100億円を違法に集めたとみられる。全容解明が待たれる。
 山口容疑者は1975年の会社設立以降、中曽根康弘元首相らへ政治献金を繰り返し、幹部に元官僚らを招いた。見過ごせないのは安倍晋三前首相が主催した「桜を見る会」の招待状を宣伝に利用するなど、信用を高めるため政界との関係を強調していた点だ。
 山口容疑者が首相推薦枠で桜を見る会に招待された疑惑について前首相は「個人情報のため回答を差し控える」と国会で説明を拒んだ。今回、逮捕が安倍氏の辞任直後となったのは腑(ふ)に落ちないが、安倍氏はきちんと説明すべきだ。
 山口容疑者はマルチ商法が問題化した1970年代に国会に参考人招致された。同社はその後も問題視されたが、新たな販売方法に切り替えるなどして事業を拡大させた。2014年には消費者庁が同社に行政指導をしたが、業務改善命令は16年12月と遅れた。同社は15年の桜を見る会の招待状を顧客の勧誘に利用しており、被害の拡大につながった可能性がある。
 なぜ山口容疑者が招待されたのか。政府は招待者名簿や首相枠を徹底的に調査する必要がある。加藤勝信官房長官は名簿が保存されていないとして再調査に否定的な考えを示したが、到底納得できない。加藤氏の写真もジャパンライフの宣伝資料に使われていたことが分かっている。
 そもそも桜を見る会は第2次安倍政権以降に参加者が急増し、安倍氏の地元後援会員が多数招かれていた「私物化」が問題となった。安倍氏側が前日夕食会で支援者に飲食代を提供したとの疑惑なども解明されていない。
 菅首相は就任後、桜を見る会の中止を表明した。だが疑惑に蓋(ふた)をすることはできない。安倍政権の官房長官として、この問題の対応に当たった自身の責任も問われる。
 桜を見る会だけではない。公文書が改ざんされた森友学園問題や、安倍氏の友人が理事長を務める加計学園の獣医学部新設問題。政治の私物化や官僚の忖度(そんたく)、ずさんな公文書管理などが問われた前政権下での多くの問題に菅首相は正面から向き合うべきだ。
 首相は縦割り行政打破や規制改革、デジタル化推進などに新たに取り組む姿勢を打ち出したが、国民は「負の遺産」も忘れてはいない。疑惑をきちんと解明して行政に公正と透明性を取り戻し、傷ついた法の支配や民主主義を立て直していくことが急務である。