<社説>ヘイトスピーチ規制 多様性の保障が急務だ


社会
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 ヘイトスピーチの規制条例が県議会でも議論されている。しかし文教厚生委員会で議題に上るものの、制定に至っていない。憲法が保障する表現の自由の兼ね合いを県は指摘するが、個人の尊厳が憲法上の核をなす権利である。

 5年ほど前から県内でも那覇市役所前などで外国人を対象にヘイトスピーチがあった。この事案で県はヘイトスピーチと認識していることを初めて県議会で示した。外国人を含め個人を脅かす事態を放置するわけにはいかない。
 基幹産業が観光である沖縄で海外から訪れる人々が安心して過ごせる地域づくりは欠かせない。世界に開かれたダイバーシティ(多様性)を追求し、保障する方策は条例化を含め急務だ。
 コロナ禍以前の2019年に県内を訪れた外国客は300万人近い。県内の外国人就労者は昨年10月末時点で最高を記録し1万人を超えた。コロナ禍を超えれば、私たちは再び観光をはじめ、就労や生活の場に至るまで海外からの人々と身近に向き合うことになる。
 そんな機運を台無しにしてしまいかねないのがヘイトスピーチだ。特定の人種や民族、国籍、出身地、宗教などの属性を持つ人を差別したり、憎悪をあおったりすることと定義される。いわれのない「犯罪者」との誹謗、果ては「殺せ」「出て行け」などの罵声は聞くに堪えない。
 沖縄を標的にしたヘイトスピーチが認識されたのは2013年に東京都で県内首長たちがデモをした時ではないか。オスプレイ配備撤回を求める中、「おまえら中国人の手先か」「死ね」などの言葉を浴びせかけられた。
 15年10月の県議会で翁長雄志知事が、ネット上での娘が中国に留学しているとの根も葉もない風説を否定した。
 今年7月に投開票された東京都知事選では立候補者の1人が中国大使館前で中国の蔑称「支那」を連呼、侮辱的発言を繰り返した末、矛先を玉城デニー県知事に向け「支那の工作員」とも発言した。デマで分断や排除をあおる。ヘイトスピーチの根源的な危うさが再び顕著となっている。
 封じ込める動きは国内でも出てきた。大阪市が16年1月に初めて規制条例を制定し、昨年6月には神戸市も続いた。今年7月に全面施行された川崎市の条例は全国で初めて罰則を盛り込んだ。川崎市は今月9日にはネット上の書き込み2件を「不当な差別的言動」に当たると判断し、削除を求める答申をまとめた。
 女性や障がい者、外国人、そして性的マイノリティーなど多様な人材の活用は社会や企業の活力、競争力を高める上で鍵を握る。GAFAと呼ばれる米国の大手IT企業の隆盛は多様な人材が支えている。
 差別を許さず、多様性ある社会づくりが沖縄の活力源になることを自覚したい。条例整備は差別を拒む姿勢を発信し、信頼を得る機会となる。