<社説>安倍前首相 不起訴不当 検察は捜査を尽くせ


社会
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 安倍晋三前首相の後援会が「桜を見る会」前日に主催した夕食会の費用補塡(ほてん)問題で、東京第1検察審査会は公選法違反容疑などで告発され不起訴(嫌疑不十分)となった安倍氏について、一部を「不起訴不当」と議決した。東京地検は再捜査し、あらためて処分を決めることになる。

 国民からなる検審が、真相解明が不十分と結論付けた事実は重い。検察は国民の良識に真摯(しんし)に向き合い、証拠の収集に努めるなど捜査を尽くすべきだ。検審が安倍氏に求めた説明責任は当然で、安倍氏は速やかに説明すべきだ。
 議決書によると、不起訴不当となったのは、有権者に寄付行為をしたとする公選法違反容疑と、資金管理団体「晋和会」の会計責任者の選任・監督に対する注意義務違反があったとする政治資金規正法違反容疑。
 東京地検特捜部は、夕食会の参加者に寄付を受けた認識がなかったとして安倍氏を不起訴としていた。その処分の数日前に安倍氏を1度だけ任意聴取し、事務所の家宅捜索もしなかった。
 検審は「一部の参加者の供述だけで判断するのは不十分」と批判した。安倍氏の認識にも、本人の供述だけでなくメールなどの客観資料も入手し判断すべきだとしている。
 「晋和会」の収支報告書の不記載に関し、十分な捜査が尽くされたとは言い難いとして、会計責任者とともに、安倍氏の注意義務違反容疑も捜査すべきだとした。
 検審はことし2月、香典提供問題で不起訴(起訴猶予)とされた菅原一秀前経済産業相に対し「起訴相当」とした。「政治への忖度(そんたく)があったのか」という懸念は国民の中で払拭(ふっしょく)されていない。再捜査の結果、略式起訴に覆った。
 公費(税金)と政治の私物化と指摘された「桜を見る会」そのものや夕食会費用補填問題に対する国民の関心は高い。真相解明を求める国民の厳しい目は検察にも注がれている。
 検審は異例ともいえる付言で、安倍氏自身への説明責任も求めた。付言は「政治家はもとより首相だった者が、秘書がやったことだと言って関知しないという姿勢は国民感情として納得できない」と断じている。
 安倍氏は国会で「夕食会の支払いは参加者の会費で完結した」などと答弁したが、昨年12月の不起訴処分後には「結果として事実に反するものがあった」と訂正している。
 「起訴相当」の議決ではないため、安倍氏が再捜査で不起訴となっても、検審による2度目の審査は行われず、強制起訴される可能性はない。今回の検審議決後も、安倍氏は傍観の姿勢である。
 衆院調査局によると、夕食会問題で事実と異なる可能性がある政府答弁は少なくとも118回。議決に至る経緯を含め国政を混乱させた道議的責任も重い。安倍氏は自らの進退を明らかにすべきだ。