<社説>基地と経済リンク 沖縄の安全は置き去りか


社会
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 岸田文雄首相は臨時国会で所信表明演説を行い、名護市辺野古の新基地建設推進と沖縄の経済振興をリンクさせる姿勢を鮮明にした。

 所信表明で、これほど露骨に「アメとムチ」の政策を述べた首相がいただろうか。沖縄の経済振興は、基地と切り離して、あくまで沖縄県の自主性を尊重するものでなければならない。沖縄の安全を置き去りにするような発言は看過できない。
 首相は、外交・安全保障政策の項目で、沖縄の基地問題についてこう説明した。
 「日米同盟の抑止力と普天間飛行場の危険性の除去を考え合わせたときの唯一の解決策である辺野古移設を進め、普天間飛行場の一日も早い全面返還を目指します」。丁寧に説明しながら「あわせて、強い沖縄経済をつくるための取り組みを進めます」と結んだ。
 文章の全てが問題だ。第1に基地問題と沖縄の経済振興を別々の政策項目でそれぞれ説明するのではなく、一段落の中で完結させている。明らかに沖縄の経済振興と新基地建設をリンクさせている。
 そもそも沖縄振興の根拠となる沖縄振興特別措置法は「沖縄の置かれた特殊な諸事情に鑑み」て制定された。「特殊事情」とは戦後、日本の独立と引き換えに米国施政権下に置かれ、基地負担を担わされた歴史的事情などを指す。「特殊事情」である基地と経済振興を結び付けることは法律に規定されていない。
 第2に「抑止力」と「危険性除去」は同列にできない。抑止力を維持するために、普天間より基地機能を強化した新基地を辺野古に建設すれば、どういう結果を招くのか。普天間の危険性を除去しても、有事の際に辺野古が標的にされ、県民の危険性はなくならない。基地を県内にたらい回しする限り「沖縄の負担軽減」にはならない。
 最後に「辺野古移設を進め、普天間飛行場の一日も早い全面返還を目指し」という説明は、机上の空論に過ぎない。
 普天間飛行場の全面返還に日米が合意してから四半世紀たったが、いまだ返還の見通しが立たず「世界一危険」とされる飛行場が街のど真ん中に居座り続けている。辺野古移設は「一日も早い」返還につながらなかったのである。
 なぜなら埋め立て予定海域に技術的にも困難視される軟弱地盤が存在するからだ。政府は報告を受けていながら都合の悪い事実を隠して埋め立てを強行してきた。建設費はかさみ、完成のめどは立たない。「辺野古が唯一」という政府説明はフィクション(虚構)なのである。
 事実と異なる作り話を「丁寧な説明、対話」によって何万遍繰り返されても、地元の信頼は得られないだろう。
 8日は太平洋戦争開戦から80年。外交交渉によって引き返せる局面が何度もあったことが明らかになっている。今、沖縄で同じ過ちを繰り返してはならない。