<社説>千葉女児虐待死3年 再発防止へ道半ばだ


社会
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 千葉県野田市立小4年の栗原心愛(みあ)さん=当時(10)=が2019年1月に虐待により死亡して3年が過ぎた。17年まで糸満市に住んでいたことから、県民にも大きな衝撃を与えた。事件後、法律の改正、条例制定、児童相談所(児相)の増員などの取り組みが全国的に進められてきた。しかし、痛ましい事件が続いている。事件を教訓とした課題はいまだ多くあり、再発防止は道半ばだ。

 19年の事件後、4月に東京都が全国に先駆けて児童虐待防止条例を施行した。20年4月には、親などによる体罰禁止を明記した改正児童虐待防止法、児相の強化を定めた改正児童福祉法が施行された。沖縄県も同じく「子どもの権利を尊重し虐待から守る社会づくり条例」を施行した(20年3月)。沖縄県は昨年11月に「子どもの権利の日」「子どもの権利週間」を定め啓発活動を展開した。糸満市も県内市町村で初めて虐待防止条例を制定し、4月に施行する。
 これらの法律や条例は体罰禁止を明記しているが罰則はない。体罰行為は刑法の対象になることと、抑圧でなく支援によって虐待防止を実現するという考え方からだ。民法に親の懲戒権が残っている問題も、現在、法制審議会で削除に向けて検討中だ。
 法改正や条例によって虐待を許さないという機運が一定程度社会に浸透したことは間違いない。児相職員の増員によって担当者を「相談」と「介入」に振り分けるなど体制強化も進んでいる。しかし、相談件数の増加に対応が追いついていない。経験を要する仕事だけに人材育成にも時間がかかる。過渡的状況は当分続きそうだ。
 警察との虐待情報の「全件共有」にも課題がある。保護者と信頼関係を築き家庭環境を修復することを目的とする児相には「警察沙汰になると誰も相談に来なくなる」という懸念がある。昨年8月、大阪府で3歳男児が熱湯をかけられて殺害された事件では、児相は警察と情報共有をしていなかった。重要なことは、子どもの命を守ることであり、サインを見逃さず対応することだ。情報を共有した上で見守りや介入の司令塔を担えるよう、児相に十分な陣容を整えるべきだ。
 ドメスティックバイオレンス(DV)加害者に教育プログラムを施すことで事件を未然に防ぐ取り組みも進めたい。19年の事件でも、父親のDVがあった。児童虐待やDVの背景に貧困や孤立がある場合が少なくないと指摘されている。虐待やDV防止の手だてとして子育て支援も重要だ。
 沖縄県の条例は、国連の子どもの権利条約を組み込み、子どもに意見を表明する権利などがあり「全ての子どもは個人としての尊厳が重んぜられる」とうたっている。県条例に基づく啓発活動を通じて、学校における子どもの人権尊重などにも波及・発展していくことを期待したい。