<社説>軽減税率導入 10%ありきは容認できない


この記事を書いた人 Avatar photo 宮城 菜那

 自民党税制調査会が、2017年4月の消費税10%への引き上げと同時に軽減税率を導入する方向で本格的な議論を始めた。

 安倍晋三首相が消費税率引き上げと軽減税率の同時導入を指示したことで急展開した格好である。首相は指導力をアピールしたいのだろうが、評価に値しない。
 そもそも自民党は昨年の衆院選で、17年度から生活必需品の消費税率を低く抑える軽減税率導入を目指すことを公約に掲げていた。公約に盛り込んだ以上、国民が望む軽減税率を実現することは国民との約束である。公約実現にようやく着手したにすぎない。
 政府、与党内では「みなし課税」を採用する案が浮上している。売り上げに占める軽減対象品目の割合を一定と見なし、業種ごとにあらかじめ決めた割合に従って納税する方式だ。消費税率8%と10%の税額を仕分ける必要がなく、事業者は現行の経理方法を維持できる利点がある。
 だが、17年4月導入に間に合わせるための過渡的な措置とはいえ、大きな問題をはらんでいる。実際の税額と納付額が異なることは避けられない。事業者の手元に本来納めるべき税金が残ったり、逆に事業者が払い過ぎてしまったりする可能性がある。
 事業者間で不公平な状態が存在することはいかがなものか。公平であるべき税制上も大きな問題である。
 軽減税率の対象品目も焦点となるが、安倍政権が公約実現に背を向けてきたこれまでの経緯からして、軽減税率制度が骨抜きにされる懸念がある。
 その理由の一つは、安倍政権が財務省の提案した還付制度の導入を目指していたことにある。還付制度は支払時に税率10%で支払い、還付対象品について2%分を後から手続きした人に払い戻すものだ。支払時に税金が軽減されない制度を「日本型軽減税率制度」と名付け、公約した軽減税率とは全く別ものを検討してきた。そのことからしても、安倍政権が軽減税率に本気で取り組むかどうか疑念がわく。
 消費税を10%に引き上げるならば、軽減税率導入は不可欠である。だが国民の暮らしを考えれば、消費税を10%に引き上げる状況にはない。10%ありきの軽減税率導入によって、国民に配慮したかのように装うやり方は容認できない。