<社説>自衛隊に適齢名簿 個人情報提供は抑制を

 自衛官に適した年齢の住民として自治体がその個人情報を自衛隊側に提供する。だが、当の本人や家族に了承を得る手続きはない。

 自分の預かり知らないところで個人情報が紙で自衛隊にもたらされたことに、ふに落ちない当事者は少なくないだろう。
 沖縄、宜野湾の2市が自衛官の採用業務を担う自衛隊沖縄地方協力本部の依頼に応じ、住民基本台帳から自衛官適齢者として18~27歳未満の個人情報約2万4千人分の名簿を提供していたことが分かった。
 提供されたのは氏名、生年月日、住所、性別である。県内市町村は住民基本台帳の閲覧は許してきたが、名簿提供は初めてだ。
 右崎正博獨協大法科大学院教授は名簿提供が自治体の個人情報保護条例から逸脱するとの見方を示す。さらに提供の根拠となっている自衛隊法施行令をめぐり、国会審議もないまま、募集資料を求めることを可能にしたと指摘する。
 自衛隊法を超えて、施行令が名簿収集の手だてを担保しているという専門家の指摘は重い。制度の成り立ちに疑問符が付くのである。
 マイナンバー制度が始まり、国民の個人情報保護意識が高まっている。自衛官採用に特化した名簿の提供は個人情報保護の観点からも、自衛隊との向き合い方に多様な民意が存在する点からも抑制的であるべきだ。
 宜野湾市は「違法性がなく、断る理由がない」、沖縄市は「情報提供するのは一緒で閲覧と違いはない」と説明している。釈然としない。自衛隊が台帳を閲覧して書き写すことと自治体が主体的に名簿を提供することは次元が異なる。
 ことしは9月に集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈に踏み切った安倍政権が安保関連法を成立させた節目の年となった。他国の軍隊の戦争を支援する役割を自衛隊が担いかねないことに米軍基地を抱える県内では懸念が強い。2市の判断は妥当だったか、疑問を抱かざるを得ない。
 神戸新聞によると、兵庫県内41市町のうち16市町が2014年度に住民基本台帳から高校3年生などの個人情報を紙や電子データとして提供していた。しかし、マイナンバー制度の導入を見据えた個人情報保護の観点から、15年度は5市町が提供をやめた。
 個人情報の提供を見直し、抑制的な対応を取る自治体が増えているのである。時代のすう勢だろう。