<社説>性犯罪処罰要件明確化 「不同意」許さない社会に


社会
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 法制審議会の部会が「魂の殺人」と呼ばれる性犯罪の処罰要件を明確化する刑法改正の要綱案をまとめた。「同意しない意思」に重点を置いたとして、被害者団体は一定の評価をした。課題は残るが、日本が「同意のない性行為は処罰される」社会になるために一歩前進した。

 2017年の刑法改正で、強姦(ごうかん)罪の名称を強制性交罪に変更し、法定刑の下限が懲役3年から5年に引き上げられた。被害者の告訴が必要な「親告罪」規定も撤廃された。しかし、「暴行・脅迫」が要件のままだったため、被害の防止や処罰につながらないという批判があった。
 19年に無罪判決が相次ぎ、抗議する被害者らによる「フラワーデモ」が始まった。世論が高まる中、法務省が設置した検討会は「同意がない性行為を処罰すべきだ」という意見で一致し、法制審議会に諮問された。
 22年10月、「拒絶困難な状態にさせること」を要件とし、8項目を具体的に例示する試案が公表された。「拒絶困難な状態」という表現は曖昧だと批判され「同意しない意思を形成、表明、全うすることが困難な状態」と修正され、今回の要綱案に至った。
 「不同意性交罪」とするよう求めてきた被害者団体は、「同意しない意思」が重視されたことを評価しつつ、まだ拾い上げられないケースが出ると指摘する。
 一つは時効だ。要綱案では強制性交罪の時効を15年に、強制わいせつ致傷罪は20年へとそれぞれ5年延長とした。さらに、被害時に18歳未満なら成人になってから時効が進むとした。それでも被害者団体は、20年の調査で性被害と認識できるまで26年以上かかった割合が4・4%に上ったことなどを踏まえ、時効のさらなる延長、または撤廃を主張している。
 8項目には「予想と異なる事態に直面して恐怖し、または驚愕(きょうがく)していること」「虐待に起因する心理的反応があること」などがある。その中で「その他類する行為」などは曖昧だという意見もある。
 要綱案について法務省は「処罰範囲は現行と変わらない」とし「要件を具体化したことで、本来処罰すべきだった行為が適切に拾えるようになった」としている。政府は今国会に改正案を提出することを目指している。
 欧州では、スウェーデンなどに、積極的な同意がなければ処罰する「イエス・ミーンズ・イエス(イエスだけがイエス)」型と呼ばれる規定があり、社会規範となっている。「イエス」型なら、処罰されるかどうかもより明確だ。国会でも社会でもさらに議論し、よりよい法改正を目指したい。
 性犯罪を起こさないためには、自分の体を大切にする自尊感情と相手への思いやりを育む性教育も重要である。それが性やジェンダーを巡る人権の尊重にもつながる。