<社説>BPO意見書 「報道弾圧」の体質改めよ


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 放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会は、NHKの報道番組「クローズアップ現代」の中でやらせがあったとされる問題について「重大な放送倫理違反があった」とする意見書を公表した。

 「番組はNHKのガイドラインにことごとく違反している」など、検証委の指摘は重い。
 事実の確認と、その積み重ねを正確に伝えるのが報道番組、マスメディアの基本であり、責任だということは言うまでもない。NHKは指摘を真摯(しんし)に受け止め、信頼される番組づくりに当たることが求められる。
 注目されるのは総務省、自民党を厳しく批判したことだ。文書で厳重注意した総務省と、NHK幹部を呼び出し事情聴取した自民党を「極めて遺憾」「放送の自由とこれを支える自律に対する政権党による圧力そのもの」などとした。
 個別の番組で放送事業者を呼ぶのは行き過ぎだ。免許付与権を持つ政府が、放送法違反による行政処分の可能性をちらつかせることなどあってはならない。放送の自由を前面に掲げた同法を番組内容の規制に利用するのは間違いだ。
 報道機関の役割は権力監視であり、政権を批判することも当然ある。政府や政権与党が、報道が気に入らないから圧力をかけようとするのは、憲法21条が保障する「表現の自由」に反する。さらには「国民の知る権利」を損なうことにもつながり、民主主義の土台は破壊されてしまう。
 根底には、表現の自由や言論機関の重要性を理解していない政権、自民党の体質があると言っていい。
 昨年の衆院選ごろから「公正中立」を名目に、安倍晋三首相らがテレビ番組を批判する事例、政治報道に注文を付ける場面が目立つ。ことし6月には、同党議員の勉強会での「マスコミを懲らしめる」発言が波紋を呼んだ。講師の作家は「沖縄の二つの新聞はつぶさないといけない」とも発言した。
 政権側は「表現の自由は憲法で保障されている」と報道圧力を否定するが、結果的に報道機関が萎縮し、言論の自由を脅かす恐れをはらんでいる。
 権力の報道圧力によって情報統制がもたらされる。情報統制は小さなところから始まり、どんどん拡大していく。「異論は許さない」という安倍政権、自民党の「報道圧力」体質を改めないと、日本の民主政治は崩壊を招きかねない。