<社説>米ランド研報告 理なき基地集中を訴えたい


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 沖縄への米軍基地集中と辺野古新基地建設に軍事的必然性はないことが、さらにはっきりした。
 米有力軍事シンクタンクのランド研究所が9月に公表した報告書の中で、中国のミサイル能力の急速な向上を挙げ「中国の近くに配置された米軍基地は防御を賄えなくなるだろう」と分析した。

 同研究所は米軍配置に関する検証調査を議会から受託するなど軍事政策に大きな影響力を持つことで知られるだけに、報告にも重みがあろう。
 ただ沖縄に関する今回の分析は必ずしも目新しいものではない。沖縄への基地集中に戦略上の合理性はないことは、多くの米専門家がこれまで指摘してきたからだ。
 例えばジョセフ・ナイ元米国防次官補は昨年の論文で「中国のミサイル技術が発達し、沖縄の米軍基地は脆弱(ぜいじゃく)になった」と指摘し「日米両国は同盟の構造を再考しなくてはならない」と提言した。
 ランド研究所の報告も「脆弱性」を裏付けるものだ。1996年~2017年の米中両国の軍事力を詳細に比較し、太平洋の米軍基地に対する中国からのミサイル攻撃について、03年までは米側が「大きく優位」だったが、10年に「ほぼ同位」となり、17年には米側が「不利」に転じると評価した。
 ここでいう「脆弱性」とは中国のミサイル射程内にある沖縄に米軍基地を集中させておけば、有事の際に数発で重要拠点が壊滅し、多数の犠牲が生じるリスクが高まるといったことを指している。
 米軍は既にそのリスクの回避に取り組んでいる。グアムなどで拠点を拡大し、在沖海兵隊9千人をハワイ、オーストラリアなどを含めて移す計画はその一環だ。海兵隊などの陸上兵力よりも、遠距離からの海軍・空軍力の攻撃を重視する戦略とも表裏一体にある。
 こうした米軍の作戦構想から考えれば、海兵隊基地である普天間飛行場の県内移設の非合理性は明らかだ。辺野古見直しへの柔軟な意見は、ナイ氏の他にも日米安保に精通する多くの米関係者が唱えてきた。その主張の背景には沖縄の民意に加え、軍事上の冷静な判断もあろう。
 辺野古の新基地建設をめぐり日本政府は県を相手にした訴訟を17日にも起こす。米専門家らの柔軟姿勢と比べたとき、辺野古に固執する頑迷ぶりは何とも腹立たしく、情けない。理は沖縄にあることを重ねて訴えていく必要がある。