<社説>代執行提訴 指弾されるべきは誰か 片腹痛い政府の主張


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 いったい誰が誰を訴えるべきなのか。理非曲直を考えれば、本末転倒の感を否めない。

 米軍普天間飛行場の移設先となる辺野古新基地問題で、翁長雄志知事の埋め立て承認取り消し処分は違法だとして政府は処分撤回へ向け代執行訴訟を起こした。政府と沖縄県との対立はいよいよ法廷闘争の局面に入った。
 それにしても政府が知事を訴えるとは噴飯物だ。行政不服審査法を恣意(しい)的に解釈して法の原則に反し、沖縄の選挙結果を無視して民主制にも背いたのは誰か。指弾されるべきはむしろ政府の方だ。

居直り

 訴状で政府は、知事の承認取り消しによる不利益と取り消しをしないことによる不利益とを比較している。そして「航空機事故や騒音被害といった普天間飛行場周辺住民の生命・身体に対する重大な危険は現実化している」と強調し、辺野古移設を正当化する。
 しかし1996年に米側が海兵隊の沖縄撤退を打診したのに対し、逆に日本政府が引き留めたという事実を、当時のモンデール駐日大使がつい先日証言したばかりだ。現在の辺野古新基地計画を決めた2005年の在日米軍再編交渉の際も、米側が海兵隊の九州や関東への移転を打診しても日本政府の方が取り合わなかった事実を、米側当事者が証言している。
 そして深夜・未明の飛行禁止を定めた嘉手納・普天間両基地の騒音防止協定を結んだ後も、未明の爆音発生を許容し続け、抗議一つしなかったのも日本政府だ。前知事との約束である「普天間基地の5年内運用停止」を米側に持ち掛けてすらいないのも政府である。
 それなのに飛行機事故で沖縄の人の生命が失われるのを心配していると言うのである。沖縄の騒音被害を危ぶんでいると言うのである。片腹痛いとはこのことだ。
 訴状はさらに、移設作業が中断すれば「日米の信頼関係が崩壊しかねず、外交などに計り知れない不利益」と主張する。だが当の米国のエレンライク在沖総領事は移設計画が滞っても「(日米関係に)影響は全くない」と述べている。政府の主張は言ったそばから否定されているのだ。
 その上、既に工事で473億円も支払ったから、承認が取り消されれば「全くの無駄金」とも主張する。工事の中止要求を無視していたずらに税金を投じてきたのはいったい誰か。居直るのもたいがいにしてもらいたい。

目に入らぬ被害

 一方で訴状は「承認を取り消さないことによる不利益」も考慮に入れる。だがそれを辺野古周辺の騒音被害と環境問題に限定する。沖縄全体がさらされる墜落や爆音の被害、基地がなければ存在しない米兵による事件の被害も、政府の目には見えないようだ。
 新基地は米国防総省の報告書で耐用年数200年と想定する。埋め立てなので国有地である。沖縄が手出しできない基地が半永久的に存在していくのだ。これが巨大な不利益でなくて何であろう。
 そもそもこの両方向の「不利益」は、沖縄の基地負担軽減に照らしてどちらが不利益かという観点が主である。それなら判定する主体は沖縄であるべきだ。そうであれば、結果はもうはっきり出ている。県民は再三再四、選挙でこれ以上ないほど明瞭に新基地は不要と判定しているのである。
 政府は行政不服審査法に基づく承認取り消し執行停止の際は「私人」となり、今回の訴訟は国として提訴した。都合よく立場を使い分けるのは、多くの行政法学者が指摘するように違法であろう。翁長知事が会見で述べた通り、県が政府に「違法と決めつけられるいわれはない」のである。
 このように政府の主張は矛盾、自家撞着(どうちゃく)、非合理で埋め尽くされている。大手メディアは政府の勝訴間違いなしと報じるが、果たしてそうか。裁判所が論理的に判断すれば、少なくとも政府の主張の矛盾は見抜けるのではないか。