<社説>軽減税率の財源 無い袖を振るのが政治だ


この記事を書いた人 Avatar photo 宮城 菜那

 2017年4月の消費税増税時に導入する軽減税率の対象品目をめぐり、自民、公明両党の協議が難航している。安倍晋三首相の指示で、自民党が軽減税率の財源を4千億円以内とする方針を打ち出し、上積みを求める公明党と意見の対立が続いている。

 政府、与党は軽減税率導入で生じる税収の不足分4千億円は医療や介護、育児にかかる低所得者の負担軽減策見送りで賄う方針では一致している。
 消費税は全て社会保障費に充てるからといって、不足分を社会保障の施策を削ることで対応するのは短絡に過ぎる。全ての政策の無駄を総点検し、浮いた分を社会保障費に回すことを検討すべきだ。中でも、法人税の引き下げは再考する必要がある。
 法人税は15年度税制改正で現在の税率32・11%を、16年度に31・33%未満に引き下げることが決まっている。安倍首相は今月開かれた経済財政諮問会議で、16年度の税率を「早期に20%台に引き下げる道筋をつける」と述べ、大幅に引き下げる方針を示している。
 法人税減税は企業の国際競争力を高め、設備投資拡大や賃上げを後押しすることが狙いとしている。だが、減税分は企業の内部留保に回る可能性を否定できない。
 実効性が不透明な法人税減税こそ先送りし、その分を社会保障費に回すべきである。
 そもそも消費税増税の負担を軽減することと引き換えに、社会保障政策の一部を見送るやり方は国民の理解が得られるだろうか。
 自民党の宮沢洋一税制調査会長は、社会保障の枠内で財源をやりくりする姿勢を崩していない。麻生太郎財務相に至っては、軽減税率の財源が4千億円を超える場合は「福祉を減らすことになる」と述べている。このような硬直化した考えは改めるべきだ。
 安倍首相は「無い袖は振れない」と取り付く島もないが、無い袖を振ってでも必要な社会保障費を確保するのが政治の役目である。その努力もせずに社会保障の一部を見送るとあっては、政治の存在意義はないと言わざるを得ない。
 軽減税率は所得に限らず全ての人がその恩恵にあずかる「あしき平等」の側面がある。今後は所得税の累進制を高めることなど、税制の在り方を総合的に再検討し、併せて全ての生活必需品を軽減税率の対象とする必要がある。