<社説>年金積立金赤字 株式運用の危険性を証明


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 国民年金と厚生年金の積立金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が7~9月期に、中国を震源とした世界同時株安の影響から7兆8899億円の運用損を出した。

 GPIFは昨年10月、運用資産の60%を占めていた国債を中心とした国内債券を35%に減らし、12%だった国内株式と外国株式をそれぞれ25%に倍増させた。外国債券も11%から15%に引き上げた。
 その結果、7~9月の資産別収益は、国内株式が4兆3154億円、外国株式が3兆6552億円、外国債券が2408億円の赤字となった。国内債券だけが3022億円の黒字だった。
 比率を引き上げたものは全て赤字で、引き下げたものは黒字という最悪の結果は、予想通りと言っていい。国民の老後の生活を支える年金を株式で運用する危険性をあらためて証明したといえよう。
 10月以降、株価が持ち直したことで、損失はほぼ取り戻したという。だが国民の財産である年金積立金が一時的であれ、失われたことは看過できない。
 GPIFの担当者は「長期的な視点で判断してほしい」とする。確かに株式運用を増やした2014年度は過去最高の15兆円強の黒字だった。だがそれは一過性のものとみる慎重さが必要だ。近年の株価上昇は、日銀をはじめとした世界的な金融緩和政策に支えられている面が大きく、実体経済を反映した株価とは到底いえない。
 長期的には、株価を無理に維持してもいつかは破綻するだろう。年金積立金が大きく減ると、年金受給額が減らされたり、保険料が引き上げられたりすることは十分考えられる。そのようなリスクを避けるため、米国では市場で取引されない国債で全て運用している。日本も見習うべきだろう。
 年金積立金運用方針の変更は、GPIFが買いに回ることで株価を上昇させたい安倍晋三首相の意向で決まった。アベノミクスがさも成果を上げているように見せたい政権の体面を保つために、年金積立金を危険にさらすことは許されるものではない。
 市場関係者から「巨大なクジラ」と呼ばれるGPIFは約135兆円を運用する世界最大規模の機関投資家である。運用比率を一気に下げると市場への影響が大きい。徐々に従前の比率に戻すべきだ。