<社説>マイナンバー 制度設計に無理があった


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 マイナンバー制度の運用開始に向けた個人番号の通知作業が全国的に遅れている。自治体や郵便局は膨大な事務作業に苦しんでいる。制度設計自体に無理があった。政府は来年1月の運用開始に固執してはならない。

 沖縄でも11月中に県内全世帯に届く予定だったマイナンバー通知カードの簡易書留が、受取人の不在などで約10万通が戻ってきた。全発送数約62万通の16%が本人に届いてない。
 通知カードの誤配達や紛失も全国各地で起きている。単に郵便物の取り扱いにとどまる問題ではない。政府の制度設計や周知活動に課題を残したまま見切り発車した付けが現場に回ったと見るべきだ。
 そもそも国民一人一人に番号を割り当て、税や年金などの情報を管理するマイナンバー制度が国民に周知されたとは言い難い。改正マイナンバー法が可決した9月に内閣府が発表した調査では、制度の内容を「知らない」と回答した人は56・6%に上った。
 国民的な論議や十分な国会審議を尽くさぬまま制度が創設されたことの表れだ。国民の理解度が深まらないまま運用できるのか、政府は冷静に考えるべきだ。
 制度の周知が進まない一方で、情報漏えいの危惧が国民に広がっている。改正マイナンバー法によって社会保障、税、災害の3分野に加えて預金口座なども適用対象とした。ひとたび情報が流出すれば、被害は甚大だ。
 マイナンバー制度はプライバシー権を侵害しており情報漏えいの危険性も大きいとして、国に個人番号の収集や利用差し止めを求める訴訟が仙台、東京などで起きた。制度に対する国民の不安は大きい。
 政府は、マイナンバーは利用範囲を法律で限定し、情報を一元管理しないことで、仮に漏れても被害が拡大しないとしている。
 この説明は疑問だ。関連省庁が別々に情報を管理するなら、国民を一括管理するような番号を付さなくてもよい。制度自体、必要性は乏しいと言わざるを得ない。
 この制度のために自治体は人的・財政的負担を強いられている。安全対策や情報管理システムの整備に追われる企業の負担も大きい。
 必要性が問われるのに負担だけを強いるような制度を運用してはならない。国民も意義を疑っている。政府は運用開始を見送り、廃止も含めて制度を見直すべきだ。