<社説>秘密法の適性評価 プライバシー侵害制度だ


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 制度設計に無理があったと思わざるを得ない。

 特定秘密保護法に基づき、機密を扱う公務員らの身辺を調べる「適性評価」を防衛、外務両省の職員ら計25人が拒否していた。
 10日で施行1年となる同法の適性評価で、拒否したケースが判明したのは初めてだ。だが拒否については、さもありなんと感じる。個々の理由は不明だが、適性評価に対しては、当初からプライバシーの侵害が強く懸念されていたからだ。
 適性評価とは情報漏えいの防止を目的に、公務員らが特定秘密を扱える人物かどうかを判断するための身辺調査だ。行政機関の契約先である防衛産業などの民間企業の従業員も対象となる。
 調査内容はテロリズムとの関係から犯罪歴、精神疾患、飲酒の程度、借金などの経済状況、海外への渡航歴など多岐にわたる。調査される側に強い抵抗感があったとしても、当然理解できることだ。
 適性調査の範囲は事実婚の相手を含めた家族にも及び、氏名や生年月日、国籍などもチェックする。個人情報を警察など他の政府機関や自治体、医療機関に照会することもできる。既に10行政機関が照会しているという。
 精神疾患の項目では過去10年以内の治療やカウンセリングの受診実績、担当医師名までも求められる。他人には決して知られたくない、あるいは話すべき義務のない分野だ。そうした個人の領域にあからさまに踏み込むような調査の在り方は、明らかに問題だ。
 適性評価では思想信条や適法な政治活動、市民活動、労働組合活動などの調査はできない。収集した情報の目的外利用も禁じているが、一方で調査が適法かどうかの判断は行政機関に委ねられる。
 調査対象者が拒否すれば調査は実施されないが、拒否すれば職場で配置転換や業務変更を迫られる可能性もある。不本意ながら調査に応じる公務員らは相当数いるに違いない。もし「不適格」と評価されれば、その後大きな不利益を被ることになるが、不適格の理由は明らかにされないといった問題もある。
 特定秘密保護法は1日に完全施行されたが、こうした問題の是正策は示されていない。国民の「知る権利」や「報道の自由」を制約するこの法律は運用面でもあまりに問題が多い。やはり廃止する方向で再度議論を尽くすほかない。