<社説>「130万円の壁」対策 抜本的解決には程遠い


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 塩崎恭久厚生労働相はパートで働く人の賃金を2%以上引き上げたり、週5時間以上勤務時間を増やしたりした企業に来年4月から助成金を支給すると表明した。

 女性の就労拡大が進まない要因として、会社員や公務員の配偶者に扶養されるパートなどの主婦らが、年金などの社会保険料を負担しなくて済むよう働く時間を抑える「130万円の壁」の存在が指摘されている。
 厚労相が打ち出した企業助成金は、企業が雇用しやすい環境を整え、パートの収入を増やすことで保険料を払っても収入増になるようにし、既婚女性の就労拡大を図ることが目的である。
 だが企業助成金の効果は限定的で、抜本的解決には程遠い。助成期間は4年で、それ以降は助成がなくなり、賃上げ分を企業が全額負担することになる。5年後の経済情勢を見通すことは難しく、企業が2%以上の賃上げに踏み切るかは不透明である。
 そもそも、既婚女性の就労拡大を阻害する要因は何も「130万円の壁」だけではない。子育て・介護支援を希望してもかなわない現実にも目を向け、着実に解決することが求められる。
 働く女性の約6割は第1子出産を機に退職している。家族の介護を理由に仕事を辞める介護離職は年間約10万人に上る。そのような人たちが子育てや介護の合間に、比較的自由に働く時間を設定できるパートで働かざるを得ない状況がある。時間をやりくりする中で、簡単には勤務時間を延長できない事情もあろう。
 政府は子育てや介護離職などへの対策として2015年度補正予算案で約4千億円を計上した。このうち保育所整備の前倒しに約500億円、介護施設の整備に約900億円を充てる。
 だが受け皿を整備すれば、働く女性が増えて施設が不足するといういたちごっこの側面がある。少子化の進行をにらんで、施設整備に慎重な自治体もある。保育士、介護職とも不足している。しかしながら政府の一連の対策は対症療法に終始し、抜本解決には至っていない。
 少子高齢化に伴う労働力不足を補うとの視点だけでは、女性の理解は得られない。働きやすい環境づくりは当然のこと、女性が働くことに生きがいを感じる社会をつくらなければ、既婚女性の就労拡大は今後も進まない。