<社説>米利上げ 世界経済の成長維持へ試練


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 米国は9年半ぶりに主要な政策金利の利上げに踏み切った。景気回復を踏まえ、ゼロ金利政策という危機対応に終止符を打ち、金利の上げ下げで景気を調節する正常な姿に戻った。

 利上げによって市場にあふれた資金が高い利回りを求めて米国へ流れると、市場の波乱要因となる恐れがある。世界経済と米経済の安定へ向けた試練はこれからだ。
 米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)は、金融政策を決める連邦公開市場委員会(FOMC)で、短期金利の指標フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を年0・25~0・50%とすることを全会一致で決めた。これまでは年0~0・25%だった。
 今回の利上げは世界経済にどのような影響を及ぼすだろうか。世界銀行は、米国の利上げに伴い、景気減速が顕著になっている中国など新興国の通貨を売り、将来的に高い利回りが見込めるドルを買う動きが強まると予測している。新興国は成長を支えてきた投資マネーの流出で、さらなる苦境に陥る恐れがある。
 日銀の12月の企業短期経済観測調査(短観)は、企業の景況感の底堅さを示したが、先行きはほとんどの業種で悪化を見込んだ。日本の生産や輸出は力強さを欠いている。米利上げの影響で中国経済が減速すると、日本経済への影響は避けられない。中国をはじめ新興国が、成長力を高めるために経済の構造改革を急がなければ、世界経済は不安定になるだろう。
 さらに米国の利上げでドルを買って円を売る動きが加速すると、円安が進む。円安は輸出企業にはメリットがあるが、輸入コストが上昇するので、中小企業や農家の経営を圧迫し、食品や日用品が値上がりして家計の負担が増す。
 日銀は18日、金融政策決定会合を開き、大規模金融緩和の強化策を決定した。日本経済の景気回復や物価上昇の弱さを克服するために、企業に設備投資や賃上げを促すのが狙いだという。しかし、市場は期待された政策としては力不足として株価は急落した。日銀の金融緩和策も限界に近づいているようだ。
 日米欧を不況に陥れたリーマン・ショックの後遺症から、米国は抜け出した。だが、利上げの影響が世界経済に波及して、最終的に米国経済に跳ね返ってくる可能性も否定できない。