<社説>16年度沖縄予算 貧困対策に全力を挙げよ 子ども重視の配分必要


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 2016年度の内閣府沖縄関係予算案が3350億円で決まった。15年度当初比で10億円(0・3%)の増額である。

 安倍晋三首相は現行の沖縄振興計画中(12-21年度)の沖縄関係予算について3千億円を確保すると明言しており、その基準には達したことになる。しかし、今回の予算案決定は釈然としない。
 島尻安伊子沖縄担当相は、辺野古新基地建設に反対する翁長雄志知事の姿勢に絡め「全く影響がないというものではない」と述べた。沖縄振興を担う大臣が基地と予算を露骨にリンクさせたのだ。

 許されない印象操作

 本年度を10億円上回ったという事実に照らせば、翁長知事の政治姿勢は予算に影響しなかった。菅義偉官房長官は「予算を全力で確保するために交渉した結果」と島尻沖縄相の功績を強調した。
 おかしな話だ。減額をちらつかせた大臣の交渉によって10億円が上積みされ、それが功績となるのか。「沖縄を厚遇した」という印象操作を意図するような発言でもあり、容認できない。
 沖縄関連予算といっても、3千億円規模の別枠予算があるわけではない。一括計上の仕組みで各省庁の予算を束ねているにすぎない。内容も全国どこの県とも同じメニューが圧倒的大部分を占めているというのが実態だ。
 16年度で言えば、那覇空港第2滑走路建設事業費の330億円、沖縄科学技術大学院大学関連費の167億円も沖縄関連予算に含まれている。本来なら各省の直轄事業費に含むべきものだ。
 問われるのは予算の内実だ。国の直轄事業や国庫支出金による事業が沖縄のニーズに応えているのか、検証すべきである。
 1972年度から2009年度までの沖縄振興事業費の約9割は公共事業が占めている。
 復帰後の沖縄振興計画に基づく各種事業によって県民の生活水準は向上した。半面、社会資本整備を軸としてきた振興施策の妥当性も常に問われてきた。
 公共事業を中心とした普通建設事業費・補助事業費と、社会保障関係の扶助費は、一方を増やせば一方が減るという「トレードオフ」の関係にあると言われる。
 復帰後の沖縄振興は高率補助に支えられた公共事業を優先させるあまり、社会保障関係への投資が不十分となった可能性がある。その結果、貧困問題が放置され、1人当たり県民所得の低さにもつながったと指摘されているのだ。
 それが事実ならば貧困問題を解消し、県民所得を底上げする施策展開と予算配分が求められる。

 未来への投資

 ことし、「子どもの貧困」の問題が県内で活発に議論された。27年の米統治で福祉・子育て施策が立ち遅れた。復帰後の取り組みも不十分であったため、子どもの貧困という形で顕在化した。政府の沖縄施策が取りこぼした課題だ。
 県は「子どもの貧困対策推進計画」の策定を急いでいる。小中学生と保護者1万2500人を対象にした大規模な調査を進めており、年度内に発表される予定だ。
 16年度予算で子どもの貧困対策として10億円が計上された点は注目される。単年度事業で終わらせるのではなく、継続拡充を求めたい。息の長い取り組みが必要だ。
 経済協力開発機構(OECD)加盟国の国内総生産(GDP)に占める学校など教育機関への公的支出の割合は、日本は5年連続最下位である。県民所得が低い沖縄は、この影響を強く受けている可能性がある。
 沖縄国際大学の宮城和宏教授は貧困問題の解決に向け、就学前児童への投資の重要性を指摘している。貧困問題を含む子どもを重視した予算措置は未来への最善の投資であることを確認したい。
 貧困問題を避けて通ることはできない。厳しい現実を直視し、抜本的な対策を打ち出すべきだ。そのためにはどのような予算措置が必要か、活発な論議を求めたい。