<社説>那覇市期限付き入居 ひとり親世帯支援の再考を


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 子どもの貧困対策の一環として、那覇市が一部の市営住宅でひとり親世帯の優先入居を実施する。

 収入の低いひとり親世帯の優遇措置自体は歓迎したいが、残念なのは末っ子が18歳になると退去させられる期限付きの入居であることだ。ひとり親世帯の実情を考えた場合、半歩前進、一歩後退とならないか懸念が残る。
 那覇市営住宅に最優先で入居できるのは、ひとり親世帯と子ども3人以上の多子世帯で、対象は2DK~3DKの部屋がある九つの市営住宅だ。
 那覇市は「子育て支援を中心に考えた」としており、「子育て期間が終わったら(年少児のいる)他のひとり親世帯に部屋を引き継いでほしい」と説明している。
 だが貧困対策であるなら、入居期間を限定することに疑問が残る。
 「子どもの貧困対策の推進に関する法律」は、第1条で「子どもの将来がその生まれ育った環境によって左右されることのないよう」としている。親の収入に関係なく就学機会の均等などを図ることで、貧困の連鎖を断つことが目的だ。
 法の理念にのっとれば、18歳という線引きは必要だろうか。貧困の連鎖を断つのに重要なのは「教育機会の提供」だ。大学などへの進学は、安定した収入が得られる職業選択の可能性を広げてくれる。
 那覇市のように末っ子が18歳になったら市営住宅から退去させられるとなれば、高い民間の賃貸住宅に移らざるを得ない。収入が少ないひとり親世帯で、家計に占める家賃負担が大きいと、子どもの進学機会を奪うことにならないか。
 政府の「子供の貧困対策に関する大綱」によると、ひとり親世帯の子の大学や専修学校などの進学率は41・7%で全体の進学率70・2%(文部科学省調べ)の6割だ。
 2013年の県の調査では、ひとり親世帯の収入は本人の勤労所得と児童扶養手当が主で、年間収入は母子世帯の7割が200万円未満となっている。こうした状況を反映して子育ての悩みは「進学」が最多だ。
 那覇市が説明する通り、新たなひとり親世帯に部屋を引き継ぐという考えは否定しない。だが他の方法もあるはずだ。島村聡沖大准教授(社会福祉学)が提言する家賃の一部補助を検討してもいい。
 行政の施策によって子どもの教育機会が奪われ、貧困の連鎖を生み出すことがあってはならない。那覇市は今からでも再考すべきだ。