<社説>台湾総統に蔡氏 民意尊重し中台安定を

 台湾総統選挙で、独立志向の民主進歩党(民進党)主席の蔡英文氏が大勝し、初当選を果たした。初めての女性総統が5月に誕生する。

 総統選は8年の在任中、対中接近を推し進めた国民党の馬英九政権への審判でもあった。蔡氏は中台関係の「現状維持」を訴えて中国を刺激することを避け、国民党の朱立倫主席に大差を付けた。
 蔡氏の現実路線は、中国への過度な依存が中台統一の流れを加速させるという不安を抱く台湾住民の受け皿となった。8年ぶりの政権交代は、台湾の将来は自らの手で決めたいという自己決定権の表れである。
 中台関係の「現状維持」を土台に平和共存の道を確固たるものにしたい-。中台の緊張を望まない台湾の民意を真摯(しんし)に受け止め、中国の習近平政権は国民党だけが交渉相手という政策を見直し、蔡次期政権との融和を図ってほしい。
 国民党政権は、直行便開設や観光客受け入れ、自由貿易を進める経済協力枠組み協定の締結など、中台経済協力を分厚くした。
 だが、経済は上向かずに格差が拡大し、中国資本への市場開放を行き過ぎと反発した学生らが立法院(国会)を占拠する事態も起きた。国民の支持を失った国民党は立法院選でも大敗を喫した。
 1980年代まで国民党の一党独裁が続いた台湾で、選挙による民意を反映した平和的な政権交代が確立している。中台関係のみならず、東南アジアの民主化、平和的安定に寄与すると評価したい。
 台湾生まれの政党として30年前に結党された民進党は「台湾は独立主権国家」と主張するが、蔡氏は総統選でそれを前面に出さず、現状維持を訴え、支持を広げた。
 中国側は民進党が受け入れていない「一つの中国」原則を譲らないが、蔡氏就任をにらみ、双方が玉虫色の解釈で妥結を図る動きも浮上している。中台がこの線で妥結すれば、東アジアの安全保障環境の不安定要因が取り除かれる。
 中台関係の緊張が押し寄せる度に、日米政府内で在沖米軍の必要性が過度に喧伝(けんでん)されてきた。中台関係の安定は、沖縄にとっても在沖基地の必要性が一層薄れる形で好影響が及ぶ。中台の腹を割った対話を望みたい。
 台湾は「台北駐日経済文化代表処那覇分処」を置き、県民との友好関係を育んできた。蔡次期政権下でも、沖縄と台湾の双方が一層絆を強める方策を探りたい。