<社説>憎悪表現抑止条例 差別許さぬ強い意思示す


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 特定の人種や民族などを標的に憎悪や差別をあおるヘイトスピーチを抑えるため、実施団体名を公表する大阪市の条例が成立した。

 憎悪表現、差別扇動表現と呼ばれるヘイトスピーチ対策の条例制定は全国の自治体で初めてだ。
 規制に向けた野党提出の法案審議が国会で停滞する中、憎悪表現を許さない意思を自治体単位で明確に打ち出した意義は大きい。国や他の自治体のモデルケースともなろう。
 憎悪表現について、条例は「特定の人種や民族を社会から排除する目的で、不特定多数の者が内容を知り得る場所や方法によって誹謗(ひぼう)中傷する」表現活動とした。法的に初めて定義した形だ。インターネットで活動を紹介することも対象に含めている。
 7万人を超える在日韓国・朝鮮人が暮らす大阪市では、コリアンタウンの鶴橋などで一部の団体が「殺せ」などと叫びながらデモを繰り広げてきた。東京の新大久保でも同様なデモが頻発している。
 言葉が凶器となって少数者である在日韓国人らを傷つけている。公の場で繰り出すことで差別と蔑視観を正当化し、排斥をあおる意図がある。基本的人権を踏みにじる「朝鮮人を殺せ」の暴言が行き着く先は民族差別そのものだ。
 人種差別の横行に危機感を強めた大阪市は条例化に踏み出した。公表に先立ち、有識者でつくる審査会が実態を調べ、街宣活動などを実施した当事者が意見を述べる機会も設ける。表現の自由を侵害しない留意事項も定めている。
 一方、団体名公表だけでは確信犯的な行為に歯止めがかからないとの指摘もある。被害者側が起こす訴訟を金銭面で支援する制度は自民党が難色を示し、見送られた。
 条例の着実な運用に加え、見直すべきは見直し、抑止効果の実効性を高めてほしい。
 憎悪表現は沖縄にも向けられている。2013年1月、オスプレイ配備に反対する建白書を安倍政権に提出した沖縄の代表団が東京都心をデモした際、沿道の集団から「売国奴」「生ごみはごみ箱に帰れ」などの罵声を浴びせられた。ネット上では沖縄を蔑視する言説に頻繁に出くわす。
 個人の尊厳を尊重し、平等を担保することで成り立つ民主主義社会を崩壊させかねない憎悪表現を絶つには、国会での法案審議の加速も求められよう。