<社説>代執行訴訟 和解案公表し議論尽くせ


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 米軍普天間飛行場の移設先、名護市辺野古沿岸部の埋め立て承認を取り消した翁長雄志知事に、国が撤回を求めた代執行訴訟の第3回弁論が福岡高裁那覇支部で開かれ、多見谷寿郎裁判長は県、国に対し和解を勧告した。

 和解勧告が行政事件訴訟で出されるのは異例であり、あまりに唐突だとの印象は拭えない。しかも内容は明らかにされていない。これでは県民はどう判断していいのか分からない。
 和解案は「根本的」と「暫定的」の二つの解決案が示されたという。現在のところ県、国双方とも拒絶する意思は示していない。
 法律専門家は「国に対し、いったん訴訟を取り下げ、代執行以外の手段を取るべきだと迫った」「県側に埋め立て承認取り消しを撤回させ、代わりに国に振興策を進めるよう促した」と、和解案について二つの可能性を挙げている。
 今後、和解案の内容をめぐりさまざま臆測が飛び交い、混乱さえ生じる可能性がある。
 県側は裁判所と協議し、和解案の内容を明らかにする考えを示している。当然だ。内容を県民に知らせぬまま、国と協議することは許されない。「密室協議」「水面下の取引」と批判されかねない。透明性の確保は不可欠だ。
 辺野古新基地建設は、沖縄の将来に大きく関わる問題だ。和解案は公表するべきだ。検討に値する和解案ならば、県民的議論を経て判断するのが筋だろう。
 一方、多見谷裁判長は翁長知事への本人尋問、稲嶺進名護市長への証人尋問を行うことを決めた。
 埋め立て承認の根拠となっている公有水面埋立法が、地元市長の意見聴取を義務付けている点を踏まえたのだろう。埋め立ての影響を直接受ける地元の意見を聴くことで、県側の主張を「門前払い」「入り口論」で切り捨てず、本質的な議論に踏み込む姿勢を見せたものだと一定の評価はできよう。
 ただ他の環境専門家ら7人の申請は退けた。前知事の埋め立て承認に環境保全の観点から瑕疵(かし)があり、安全保障の観点から辺野古に新基地を造る必要性がないことを示すには専門家の意見は必要であり、残念だ。
 知事、市長は尋問において、新基地建設反対の民意に向き合わず、代執行訴訟を提起してまで新基地を押し付けることは、自治権の侵害であり、民主主義の否定にほかならないと堂々と訴えてほしい。