<社説>首相の改憲発言 9条の輝き消してはならぬ


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 安倍晋三首相が「戦力の不保持」を定めた憲法9条2項を改正する必要性を訴えた。「7割の憲法学者が自衛隊に憲法違反の疑いを持っている状況をなくすべきだとの考えもある」というのが理由だ。

 99条は国務大臣、国会議員らに憲法を尊重し擁護する義務を課している。首相が憲法学者の指摘を尊重するならば99条を踏まえ、憲法違反の疑いが持たれる状況を憲法に合致させる形で解消するのが筋である。憲法を状況に合わせることは本末転倒だ。
 首相は安全保障法制の成立過程で、憲法学者の批判を無視し続けてきた。そのことをお忘れか。
 昨年6月の衆院憲法審査会で、自民党推薦を含む3人の憲法学者全員が安保法案を「違憲」と断じた。だが首相は「違憲立法かどうか、最終的な判断は最高裁が行う」と反論し、耳を貸さなかった。その後も、多くの憲法学者から「違憲」と指摘されても「憲法学者と政治家は役割や責任が全く違う」と一顧だにしなかった。
 憲法学者の意見を軽視した首相が、9条2項の改正理由に憲法学者の指摘を利用する。ご都合主義というほかない。
 政府は安保法審議で、日本の存立が脅かされる明白な危険がある場合などに限り、集団的自衛権行使を認める「限定容認論」で国民に理解を求めた。
 自民党の改憲草案9条は「戦争放棄」をうたう一方で、その規定は「自衛権の発動を妨げるものではない」とし、憲法上の制約を事実上取り払っている。首相が目指す集団的自衛権行使の全面容認につながる内容であり、認めることはできない。
 首相は憲法について「占領時代に作られ、時代にそぐわないものもある」とも述べた。交戦権を認めない9条2項が念頭にあるのは間違いない。だが「そぐわない」との指摘は当たらない。
 武力行使は市民に犠牲を強いるだけで、根本的な解決にはならない。長引くシリア内戦がいい例だ。空爆などで事態は泥沼化している。武力行使で平和は訪れないのである。
 首相は今夏の参院選で憲法改正を争点に掲げる。確かに96条で改正は認められてはいる。だが憲法の根幹である9条改正は断じて容認できない。今の時代だからこそ、重みを増す9条の輝きを消してはならない。