<社説>TPP署名 拙速審議は許されない


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 数々の疑問が払拭(ふっしょく)されたとは思えない。それどころか疑念はますます深まるばかりだ。日米など12カ国が環太平洋連携協定(TPP)の協定文に署名した。

 今後は国内手続きが焦点になるが、国会は情報開示を徹底的に求め、慎重審議すべきだ。今国会は参院選を控えて会期延長ができないが、批准を急ぐ必要はない。あるとすれば、さっさと結論を出して参院選の争点から外したい与党の思惑だけだ。むしろ疑問点を徹底的に洗い出し、参院選の争点とすべきだ。
 まず疑問なのはこの協定の秘密性である。交渉に前のめりな甘利明前担当相はフロマン米通商代表と頻繁に一対一で会談した。密室協議の中身は伏せられたままだ。
 大臣室で特定の業者から平然と現金を受け取った大臣である。密室協議が信じられるだろうか。
 「例外なき関税撤廃」が原則のTPPで、関税撤廃率は11カ国が99%以上なのに対し日本は95%で、農水産物に限ると81%だ。協定の付属書には発効7年後に米国など5カ国から要請があれば再協議するとある。再協議を約束してはいないのか。甘利氏を国会招致してただすべきだ。
 そもそも昨年10月に大筋合意したのに、協定の訳文を政府が公表したのは3カ月もたったことし1月だ。付属書に至ってはようやく2月に入ってからである。専門用語を多用して難解、かつ膨大な文書の精査はこれからだ。これで審議を急ぐのは民主主義の否定に近い。
 疑念はまだ山ほどある。TPPには、外国企業が投資先の政府を訴えることができる紛争解決手続き(ISDS条項)があるが、韓米FTA(自由貿易協定)にも同じ条項があり、米国系投資ファンドが韓国政府を訴えて韓国内で大きな問題になっている。
 ISDSでは、世界銀行傘下の国際機関が仲裁する。世銀総裁は長年、米国が指名している。その状況ではどんな裁定が下るか、目に見えている。
 例えば遺伝子組み換え食品を作る米国企業が、遺伝子組み換えか否かを表示する日本の食品表示を「非関税障壁だ」と訴えた場合、なお食品表示を維持できるのか。あるいは米国の保険・医薬品業界が日本の医療保険制度を「非関税障壁」と訴えた場合はどうか。疑念は尽きない。
 これらを徹底検証する必要がある。拙速審議は許されない。