<社説>ヘイトスピーチ 野放しの現状 許されない


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 在日朝鮮人に対するヘイトスピーチ(憎悪表現)の動画が人権侵害に当たるとして、法務省がサイト管理者に削除を要請し、一部が応じたことが分かった。

 悪質な憎悪表現が野放しになっている現状は憂慮すべきである。削除は当然だが、本来は政府の介入を待たずに削除されるべきだ。
 ヘイトスピーチは人種や国籍、民族、宗教などを理由に差別や偏見を抱き、言葉で憎しみを表現する行為だ。現在、日本でのさばっているヘイトスピーチは常軌を逸している。
 「朝鮮人は出て行け」というのは、まだましな方だ。「朝鮮人は全員死にさらせ。焼身自殺しろ」「殺せ、殺せ、朝鮮人」「鶴橋大虐殺を実行しますよ」と言うに至っては、殺人教唆・脅迫に等しい。
 昨今は沖縄に対する侮蔑的表現もネットにあふれている。2013年、オスプレイ配備反対の建白書を政府に出した沖縄の代表団に対し、沿道から「売国奴」「生ごみはごみ箱に帰れ」といった罵声が浴びせられたのも記憶に新しい。
 同じような表現が欧州で公然となされていたら犯罪となるはずだ。ドイツなら「他人の尊厳を罵倒し悪意で軽蔑・中傷」すれば「民衆扇動罪」で3月以上の懲役だ。先進国中、米国と日本はヘイトスピーチが規制の対象にならない数少ない国なのである。
 その米国でも暴力を扇動・助長するのは禁じられている。そんな言動すら野放しな日本は、先進国では極めて例外的だ。米国にヘイトスピーチ規制法はないが人種差別禁止法はある。両方ともない日本は米国よりも特殊なのである。
 国連自由権規約委員会は14年、「過激で表現の自由を超えている」と日本に法規制を勧告した。その事実を重視すべきだ。
 他方、規制の対象か否か政府が判断する仕組みは危険との指摘もある。治安維持の名の下に表現の自由を政府が踏みにじった戦前を想起すればうなずける。事実、高市早苗自民党政調会長(当時)は14年、国会周辺での政府に対する抗議デモも規制対象にしたい考えを示した。
 だが国連の勧告は「規制の目的は少数派の権利を守ることであり、少数派の表現や抗議を規制する口実に使われてはならない」と述べている。高市氏の発想は論外だ。
 規制は法に基づくべきか否か。基準はどうあるべきか。実効性をどう担保するか。論議を深めたい。