<社説>2・28賠償命令 人権意識に基づく判決だ


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 高い人権意識に基づく判決だ。不幸な歴史を乗り越え、アジア各国との信頼を築く上でも意義深い。

 台湾の国民党政権が住民多数を殺害した1947年の「2・28事件」に巻き込まれ、犠牲となった県出身者の遺族が台湾政府に損害賠償を求めた訴訟で、台北高等行政法院(裁判所)は政府側に600万台湾元(約2千万円)の支払いを命じた。
 台湾政府は上訴を検討しているが、支払いが決まれば、この事件で外国人が賠償を受ける初めてのケースとなる。
 判決が画期的なのは国際人権規約を踏まえ、賠償を認めたことだ。
 台湾政府は、犠牲になった県出身者を事件による失踪者と認定している。だが慰安婦などへの賠償請求などに日本側が応じていないことを理由に、遺族の請求を却下した。それに対し判決は、犠牲者を事件の失踪者と認めた以上、政府は賠償に応じるべきだとした。
 根拠となったのは国際人権規約「市民的および政治的権利に関する国際規約」(B規約)である。台湾がこの規約を批准していることを挙げ「人権に関して外国人も賠償を受ける権利がある」と判断したのである。
 「2・28事件」の犠牲者遺族を支援する又吉盛清沖縄大客員教授は「台湾の裁判所は政治的理由を退け、人権意識の高さを示した」と述べた。人権規約を踏まえた判決は国際的にも評価されよう。
 自国の犯した罪と不幸な歴史に向き合う姿勢も注目される。
 国民党独裁政権下では「2・28事件」はタブー視されてきたが、90年代以降は民主化に伴い台湾政府は真相解明や賠償を進めてきた。95年には当時の李登輝総統(国民党主席)が「国家元首として過ちを深く反省する」と表明した。
 過去の政権が犯した罪を償う困難な作業は、不幸な歴史の克服につながる。外国人犠牲者の遺族への賠償を命じた判決は、日本とアジアの国々の間にある不幸な関係を打開する上でも大きな意味を持つ。
 慰安婦問題で、日本は中国や韓国との関係を悪化させてきた。過去の過ちを認め、被害者に謝罪する真摯(しんし)な態度に欠けるからだ。韓国との合意が成立したものの、歴史認識や法的責任はあいまいだ。
 日本は不幸な歴史と向き合うことで、アジア各国と信頼関係を醸成しなければならない。そのためにも今回の判決から学ぶべきだ。