<社説>西沙ミサイル配備 相互不信の連鎖断ち切れ


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 南シナ海情勢が緊迫した局面を迎えている。同海域は貿易立国・日本にとって重要なシーレーン(海上交通路)だ。傍観するわけにはいかない。

 中国が南シナ海の西沙(英語名パラセル)諸島に地対空ミサイルを配備した。少なくとも2個部隊分に相当するミサイル発射装置8基の配備とレーダー施設設置が確認されたという。
 中国は「自国領土の防衛施設整備は軍事化とは無関係」と主張している。米国は「以前は存在しなかった兵器が配備され、明らかな軍事拠点化」と「一方的な現状変更」に懸念を示している。
 中国と領有権を争っているベトナムの反発はもちろん、南沙(英語名スプラトリー)諸島の領有権を主張、島々を各々実効支配するフィリピンなどもミサイル配備を批判している。
 防空識別圏を設定する布石だとの見方も出ている今回のミサイル配備が、地域の平和と安定、南シナ海の航行の自由に大きな影響を与え、緊張をもたらすのは間違いない。
 各国の対立がより先鋭化すれば、偶発的な紛争勃発を招きかねず、危険だ。米中の確執の行方は、アジア全域の安全保障を左右する。解決の糸口を見いだすための外交努力が関係各国に必要だ。
 「中国の暴走」といくら非難しても相互不信の連鎖は止まらない。強硬な対応は、相手のさらに強い行動を招く。単なる領有権争いではなく「海上交通の自由」が脅かされる事態だとの国際世論を高めることが重要だ。
 「対立」の構図を離れ、「協力」という視点に目を転じることも必要だ。航行の自由確保や緊張緩和などに向け関係国が領有権主張を棚上げし、対話するよう求めたい。
 中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)が南シナ海での緊張を高める行動の自制を約束した2002年の「行動宣言」を格上げし、法的拘束力のある「行動規範」の早期策定に力を注ぐべきだ。対話を重ねることによって相互不信の連鎖を断ち切りたい。
 米中の駆け引きの着地点は東シナ海情勢、尖閣諸島問題にも影を落とす。日本はこれまで以上にASEAN各国との協力関係強化に努め、開かれた自由な海を守るため、国際社会が連携できる環境づくり、関係国間の信頼醸成に向け主導的な役割を発揮したい。