<社説>東電元幹部強制起訴 真相えぐり出す審理を


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 世界を震撼(しんかん)させた東京電力福島第1原発事故の法的責任がようやく司法の場で問われる。

 東京地検が2度も不起訴処分にした東電の勝俣恒久元会長ら旧経営陣の3幹部が、業務上過失致死傷罪で東京地裁に強制起訴された。2015年7月の検察審査会の議決に基づくものだ。
 発生からもうすぐ5年がたつが、甚大な被害をもたらした事故の責任は誰一人問われておらず、犠牲者や故郷を追われた避難者の無念は晴れないままだ。深刻な環境破壊を招いた事故が再発する懸念も拭えない。
 原発の安全性をめぐり、多くの国民が抱く危機感と不満を反映した強制起訴である。
 紛れもない第一当事者である東京電力の法的責任がうやむやな状態を断ち、防げない事故だったのか、その責任はどこにあるのか、真相究明というよりも真実をえぐり出す徹底審理を強く求めたい。
 未曽有の自然災害に起因したとしても、それに備える手だてを尽くすことはできたはずである。事故が起きれば、放射性物質をまき散らしかねない原発には「リスクゼロ」が求められる。第1原発事故はどう見ても「人災」ではないか。
 起訴状によると、3被告は安全対策を怠った過失により、原子炉建屋の水素爆発で自衛官ら13人を負傷させ、福島県大熊町の双葉病院の入院患者44人に長時間の待機を伴う避難を強い、死亡させた罪に問われている。
 裁判の焦点は3被告が事故発生を予見し、回避する措置を講じることができたかどうかだ。
 「起訴すべきだ」と議決した東京第5検察審査会は原発事業の責任者には「万が一」に備える「高度な注意義務」があると指摘した。
 その上で、元会長らは遅くとも2009年6月までに津波の高さが15・7メートルになる試算結果の報告を受け、大津波の予測、事故対応が可能だったとしている。
 福島の事故の真相は未解明なのに、原発再稼働がなし崩し的に進み、冷却水漏れなどのトラブルが相次いでいる。大事故の教訓は生きているのか。疑問は尽きない。
 公判が始まれば、無罪を主張するとみられる3被告が直接当時の状況を説明し、東電の内部資料が証拠採用される可能性もある。東電旧経営陣の安全軽視体質を厳しく検証し、事故全体を総括し、再発防止の土台を築かねばならない。