<社説>TPP審議 甘利氏出席で説明尽くせ


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 環太平洋連携協定(TPP)の国会審議が混乱している。8日の衆院特別委員会は民進、共産両党が欠席し、具体的な審議に入れていない。

 理由は政府の情報開示の在り方にある。特別委の審議に先立ち、野党が求めた交渉記録は「秘密保持」を理由に、表題以外は全て黒塗りだった。一方で、特別委の西川公也委員長が出版しようとした著書とされる出版前原稿には交渉過程の記述があるという。もし事実なら参加各国との「守秘義務」とする政府側の主張は通らない。これが国民への「丁寧な対応」といえるのか。
 TPPは関税の撤廃・引き下げや投資の自由化などのほか、医療、知的財産など広い範囲に及ぶ。さまざまな産業や国民生活への影響が予想される。
 しかし、交渉経緯や合意内容に関する政府の情報提供は不十分で、国民の懸念や不安を払拭(ふっしょく)できていない。
 特に不安にさらされているのは農業だ。政府は2013年にTPPによる農林水産物の生産減少額を約3兆円と試算していた。その後、昨年末に公表した試算は最大2100億円と大幅に減少した。政府の説明では「農産物の関税が残ったことと、競争力強化対策の効果も考慮した」としている。
 しかし、TPP交渉の結果、関税を撤廃するのは全ての農林水産物の8割、国会決議で「聖域」とした重要5品目でも3割に上る。
 重要5品目の牛肉は関税が現在の38・5%から発効16年目に9%まで段階的に下げられ、豚肉も安い価格帯で1キロ482円の関税が10年目に50円に下がる。米は新たな輸入枠が設けられる。こうした市場開放に対する説明は不十分だ。
 政府はTPPが国内総生産(GDP)を実質14兆円程度押し上げると試算するが、13年の試算より4倍も多い。試算の幅が大き過ぎる中で、利益と損の全体像を国会審議を通して答えなければならない。
 交渉の最高責任者だった甘利明前経済再生担当相は「睡眠障害」を理由に特別委に出席せず、金銭授受問題でも説明責任を果たしていない。国会招致に応じるべきだ。
 TPPは米国が批准しない限り発効しない。それは大統領選後だといわれる。審議を焦る必要はない。国民の疑問、不安に誠実に向き合う時間は十分ある。