<社説>帝国書院教科書 承認取り消し再訂正を


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 日本の教科書検定は、誤りをただす力がないばかりか、誤りを流布しようとしている。

 帝国書院は、2017年度から使用される高校教科書「新現代社会」の事実誤認部分を訂正し、文部科学省が承認した。しかし、訂正部分も沖縄への誤解を増幅させかねない内容であり、とうてい高校教科書とは認められない。
 訂正を承認した文科省に承認取り消しを、教科書の執筆者と教科書会社に再訂正を強く求める。
 問題とされるのは教科書中の米軍基地に関するコラムだ。沖縄戦直後、米軍が住民を収容所に隔離した上で土地を奪って基地を建設したことに触れていない。まず、ここが問題だ。
 沖縄の基地問題の原点がないまま政府が「基地の存続とひきかえに、ばくだいな振興資金を沖縄県に支出」と記述した。今回この部分を削除し、米軍施設が集中していることなどを理由に「毎年約3000億円の振興資金を沖縄県に支出している」と記述している。
 これでは米軍が集中する見返りに、他府県にはない「振興資金」という特別な資金をもらっているという印象を与える。明らかに誤りだ。訂正になっていない。そもそも「振興資金」という予算は存在しない。
 帝国書院は「アメリカ軍がいることで、地元経済がうるおっている」という記述も削除した。訂正文は米軍がいることで「経済効果がある」と記述している。
 しかし「うるおっている」を「経済効果がある」に言い換えただけで、誤解を与える。基地依存度は5・4%(12年)にすぎない。逆に過重な米軍基地の存在が沖縄経済の阻害要因となっている。県の試算によると、普天間飛行場を返還して跡地利用した場合、直接経済効果は現在の32倍になる。既に返還された土地の直接経済効果は北谷町の桑江・北前地区で返還前の108倍、那覇新都心地区で32倍に達した。
 文科省は前回、誤った記述に検定意見を付けなかった。今回は「(訂正の)記述が誤りでないことが確認できた」として申請を承認した。一体どこを確認したのか。
 夏から18歳選挙権が実施される。自分の頭で考え判断する主権者教育が重要だ。そのために判断材料となる正確な情報が欠かせない。基地が沖縄を支えているという神話を教科書に載せることは、主権者教育の阻害でしかない。