<社説>オバマ氏広島へ 核廃絶へ新たな道筋示せ


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 被爆地・広島の悲願がようやく実現しそうだ。オバマ米大統領が5月末の主要国首脳会談(伊勢志摩サミット)に合わせて広島を訪れることが確実になった。

 太平洋戦争で広島、長崎の両市に原爆を投下した超大国の現職大統領による初の被爆地訪問となる。被爆者も歓迎している。
 米国内で、原爆投下によって終戦が早まったと見なす意見が多数を占め続ける中、そのトップが被爆地に足を運ぶ意義は大きい。
 「人類と核兵器は共存できない」という普遍的価値を再確認し、核廃絶に向けた転機を刻む歴史的訪問にしてほしい。
 2009年のプラハ演説で、オバマ氏は原爆を使用した道義的責任を認め、「核兵器なき世界」を提唱した。その後、ノーベル平和賞も受賞したが、世界の核廃絶は停滞している。今も世界で1万6千発の核兵器が存在する。核拡散防止条約(NPT)は半ば空洞化し、核兵器拡散が懸念される。
 広島訪問が実現すれば、オバマ氏の本気度が問われる。核兵器廃絶に向けた具体的で実効性ある新たな道筋を示してもらいたい。
 今月初め、広島市で先進7カ国(G7)外相会合が開かれたことが地ならしとなった。ケリー米国務長官が被爆の実相を生々しく伝える原爆資料館を参観した後、「世界の全ての人々がこの施設を見て、感じ取るべきだ」と記帳し、「大統領もここに来てほしい」と述べていた。
 サミット関連の大統領訪問をめぐり、沖縄には苦い記憶がある。
 2000年7月の沖縄サミットで、39年ぶりに現役米大統領として来沖したクリントン氏は県民向けの演説場所に「平和の礎(いしじ)」を選んだ。敵味方、国籍を超えて戦没者を刻み、不戦を誓う鎮魂碑での演説に期待が高まる中、クリントン氏は基地負担に言及し、「米軍の足跡を減らす」と約束した。
 ところが、約束したはずの米軍の足跡は減るどころか増している。日米両政府は辺野古新基地の建設を推し進め、県民に苦痛を与えている。
 任期が少なくなったオバマ氏の広島訪問に成果が伴わず、単なる「政治的遺産」だけが残るのなら、それこそ本末転倒である。
 オバマ氏は被爆者と面会し、核廃絶を望む思いを受け止めてほしい。世界の指導者に被爆地訪問を促す役割も果たしてもらいたい。