<社説>水俣病60年 早期に全被害者の救済を


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 水俣病が公式確認されて60年となった。だが熊本、鹿児島両県に患者認定を申請中の被害者は2千人超に上る。いまだ全面解決には程遠い状況にある。被害者や家族にとっては、つらい60年だったことは容易に想像がつく。

 最高裁から責任を認定された国がこれ以上、解決を遅らせることは許されない。抜本的な解決を早期に図るべきだ。
 病と闘ってきた小児性患者は高齢化が進み、胎児性患者らも次々と還暦を迎え、介護などの問題にも直面している。
 水俣病は過去のものではなく、現在、そして将来にわたる問題であることを認識する必要がある。不安を抱える被害者に対し、国はしっかりと向き合うべきである。
 国は「最終解決」を目指し、これまで2度の未認定患者救済策を実施した。2009年に成立した水俣病特別措置法は、認定申請や訴訟の取り下げを一時金支払いの条件とした。明らかな誤りであり、責任放棄と言わざるを得ない。
 一時金は本来、認定を待たされている期間への補償である。認定申請や訴訟を放棄させるのであれば一時金ではなく、和解金である。これでは被害者を傷つけこそすれ、救済することにはならない。
 国がなすべきことは一時的な解決ではない。被害者の恒久的な補償・救済の枠組みを構築し、被害者が安心して暮らせる環境を提供することである。
 水俣病特措法の救済対象地域以外にも、潜在的患者がいるとの指摘がある。国は救済対象地域に固執せずに、範囲を広げて被害調査を実施してもらいたい。治療法の確立を含め、全ての被害者の救済を早期に実現することで、責任を果たすべきだ。
 認定申請から10年以上たってもその可否が出ないケースがある。認定の審査を迅速に進める仕組みづくりも急ぐべきだ。
 国が1977年に設けた水俣病認定基準は最高裁に否定され、2014年3月から感覚障害だけでも認定されるようになった。だが、新たな認定基準にしても将来見直される可能性もあろう。誤診も排除できない。現行制度が完全とは言えない以上、漏れた被害者を救済する道を探る努力も求めたい。
 水俣病は当初、伝染病とみなされ、患者の多くが過酷な差別を受けた。被害者を社会全体で支えていくことも必要だ。