<社説>介護人手不足 現場の声を政策に反映せよ


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 介護の担い手不足が深刻だ。安倍晋三首相がアベノミクス新三本の矢に位置付ける「介護離職ゼロ」は掛け声倒れになっている。

 介護環境を改善するには、介護現場の人材確保、働きながら介護をしている人への対応、育児と介護の「ダブルケア」に直面している人など少なくとも三つの課題を同時に解決していく必要がある。課題を熟知している現場の声に耳を傾け、きめ細かな施策を推進するべきだ。
 日本は2025年に団塊の世代が全て75歳以上となり、要介護認定を受ける人は15年より3割増の604万人になるとされる。政府は20年代初頭に介護の担い手が約25万人不足すると推計している。事態は深刻だ。
 第1の課題は「介護現場の離職」だ。現在介護の現場から年平均20万人が離職している。介護職員の平均給与は月約22万円と全業種より10万円以上安く、賃金アップが急がれる。政府は昨年4月からの介護報酬改定で、職員の平均賃金が1人当たり月1万2千円上がるよう「処遇改善加算」を拡充した。
 だが、抜本的な賃金水準の引き上げにつながっていない。定期昇給や一時金が中心で、基本給を底上げするベースアップ(ベア)は全体の17・7%にすぎないからだ。加算は恒久措置でないため、将来にまで効果が及ぶ基本給のベアに多くの事業者が消極的になっている。
 第2の課題は「介護離職」だ。総務省の12年就業構造基本調査によると、会社などで働きながら介護をしている人は全国で約240万人。このうち家族の介護や看護を理由に仕事をやめる人は、年間約10万人いる。40、50代の働き盛りの人に多い。この世代は教育費もかさむ。介護休暇制度を拡充するために経済界全体で取り組む必要がある。
 第3の課題は、育児と介護の「ダブルケア」だ。ダブルケアに直面している人は全国で約25万人に上る。8割が30、40代の働き盛りだ。少子化や晩産化により、ダブルケアを担う人が増えるとみられ、今後は介護と育児の施策を連携させる施策も念頭に入れないとならない。
 対応を誤れば、人手不足のため施設に入れない待機高齢者が増え、そのために家庭の負担が増え、仕事を辞める人が増え続ける。企業にとっても社会にとっても損失になる事態は誰も望まない。