<社説>トランプ氏指名へ 日米安保の歪み正す機会に


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 米国の意向に唯々諾々と従うばかりだった、日本の安全保障と外交の歪(ひず)みを正す機会とすべきだ。

 11月の米大統領選に向け、実業家のドナルド・トランプ氏が共和党候補者としての指名を確実にした。民主党のヒラリー・クリントン前国務長官と激突する公算が大きい。
 「メキシコとの間に万里の長城を築く」「イスラム教徒は(米国の)安全が確保できるまで入国禁止」など、移民排斥や人種差別的発言を繰り返してきた人物だ。厳しい批判を浴びたが、泡沫(ほうまつ)候補扱いだった下馬評を覆し、予備選で勝利を重ねた。
 背景には、格差拡大など、既存の米国政治に対する不満がある。富裕層、支配階級をののしるかのような舌鋒(ぜっぽう)は、米国の富が外国に吸い取られて庶民を苦しめているとして、経済的苦境が続く中、低所得者層の支持を集めた。
 排除と分断を意図した発言を臆せず繰り返すトランプ氏が候補者レースを勝ち抜いたことに、自由と平等を最大の価値観としてきた米国社会の揺らぎが表れている。
 日米安保の現状を巡り、トランプ氏は在日米軍駐留経費の全額負担を日本に求め、受け入れなければ、在日米軍の撤退を示唆している。さらに、日韓両国の核兵器保有を容認する。
 「核の傘」で日韓を包み込んできた米国の負担が軽くなる分、国民への富の再分配を優先するという「金」を軸にした内向きの論理だ。世界に再び緊張を走らせ、国際秩序を破壊する日韓の核武装は言語道断である。
 米国内には、日本が米国に依存して巨額の軍事費を負担させているという「安保ただ乗り論」が根強い。自国の戦争による戦費がかさんだり、財政赤字が悪化したりした際、米国は日本に駐留経費負担の増額や自衛隊の海外派兵を迫り、日本はほぼ応じてきた。
 在日米軍は米国の利益を確保するために駐留している。思いやり予算は廃止すべきであり、駐留経費の負担増は応じられない。不満が収まらないなら、在日米軍撤収が始まり、「駐留なき安保」が議論されよう。
 米側の求めるがままに日本の負担を増やすことで在沖米軍の基地機能が維持、強化されることはもっての外だ。日本政府はトランプ旋風を日米関係の在り方、特に沖縄の過重な負担の上に成り立つ日米安保のいびつな姿を正す機会と位置付け、論議を尽くすべきだ。