<社説>DV加害者面談 治療の義務化・法制化を


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 ドメスティックバイオレンス(DV)やストーカー被害防止のため、警視庁が臨床心理士らによる加害者面談を試験的に始めた。

 被害の相談件数は年々増え、過去最多の更新はもはや年中行事だ。しかもそれは氷山の一角と目されている。裏を返せば、被害の数だけ加害者がいるということだ。
 加害者は他者との関係の持ち方に問題を抱えている。いわば「DV病」「ストーカー病」の患者と言い換えてもいい。その加害者を放置していれば、被害はなくならない。
 その意味で加害者面談の実施は当然だが、それを試行にとどめておくべきではない。警察庁は2014年度から加害者に精神科医の診察を促す試みも始めているが、促すだけでは不十分だ。更生プログラム・治療を加害者全員に実施するよう法制化すべきだ。
 精神科医は、DV加害者にはある種の心的傾向があると指摘する。(1)言葉による暴力で相手を支配する(2)自分の要求が最優先で、すぐに満たすよう過大な期待を持つ(3)自分の方が優れているという優越感を持つ-などだ。
 必ずしも身体的暴力を振るうばかりでもない。相手をコントロールするためには「優しさ」も利用する。社会的地位や経済力も利用する。このため第三者からは立派な人と見えることもあるという。
 そう書くと傲慢(ごうまん)一辺倒のようだが、別の分析もある。加害者は自分を被害者と思うのが常というのだ。「妻(または恋人)が自分の気持ちを分かってくれない」という心理である。従って主観的には自分を加害者と思っていないのだ。
 「自分の気持ちを分かって当たり前」と考えることの自己中心性、甘えに気付くことは一朝一夕にはいかない。だから加害者が本人の努力だけで変わるのは難しく、心理的・専門的な支援が要る。努力の継続には仲間の存在も役立つ。その意味で加害者支援の制度や拠点も必要なのである。
 実は沖縄はこうした点で先駆的だ。県は04年度からDV加害者対策事業を始め、加害者教育プログラムづくりに取り組んだ上で、06年度からは加害者更生相談窓口を設けた。更生保護法人がじゅまる沖縄が受託し、地道な取り組みを続けている。かつての加害者が講演で「気付き」を伝えるなど啓発にも熱心だ。
 この経験は財産だ。取り組みを全国に広げ、法制化に役立てたい。