<社説>介護職うつ病 財源含め抜本的対策を


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 高齢または心身の障がいにより、自力での日常生活が難しい人がいる。そんな人を手助けするのは真に尊い仕事だ。その尊い仕事を、心身ともに健康のまま、誇りを持って続けられる社会でありたい。

 仕事のストレスが原因でうつ病などの精神疾患を発症し、労災を申請した介護職員がこの5年で倍以上に増えたことが分かった。労災認定は3倍だ。
 これまで介護職の労働環境についてはその仕事柄、腰痛対策が言われてきた。今回の結果は、それでは不十分であることを物語る。精神衛生上の対策が求められる。
 2020年代初頭には介護職員は25万人不足するとされる。人口全体では既に減少局面に入っており、生産年齢人口はより急傾斜で減少しているから、労働力不足は深刻だ。介護の人手確保は超高齢社会たる日本の国民的課題であり、対策は焦眉の急と言えよう。
 専門家は「介護職員のメンタルヘルス(精神面の健康)は、勤務時間や日数で過重な負担にならないよう経営者が労務管理を適切にするか否かで大きく左右される」と指摘する。勤務時間や休日取得の状況が過酷なら離職率も高い。
 介護の仕事を「天職」と考える人も多い。そんな人を健康でない状態に追い込むのは誰も望まないはずだ。職員の精神衛生の意味でも離職者を減らす上でも、労務管理を適切に行えるようにすべきだ。
 ではどうすればいいか。やはり財源に行き着くだろう。
 政府は「1億総活躍プラン」で賃上げなど介護職員の処遇改善策を盛り込む構えだ。介護職員は平均で月1万円の引き上げを目指す。
 だが、それで済むとは思えない。介護職員の月収は昨年の平均で約22万円だ。全産業平均と比べ10万円以上低い。「焼け石に水」とも指摘される。もっと大胆に改善しない限り、人手不足は危険水準になろう。財源の裏付けも明確でない。処遇改善を参院選向けの「打ち上げ花火」で終わらせてはならない。
 税源全般の見直しを図らない限り、抜本的対策は不可能だ。例えば日本から租税回避地に逃避した資金は、一説には60兆円に上るとされる。課税していれば30兆円近い財源があったはずである。相続税や贈与税、所得税の累進税率見直しも検討材料だ。これらを見直せば格差社会の是正にもつながる。社会の在り方に関する、こうした根本的な議論を深めたい。