<社説>知事・首相会談 沖縄に犠牲強いるのは誰か


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 その冷淡ぶりに寒々しい思いを禁じ得ない。うるま市の女性会社員遺体遺棄事件を受け、翁長雄志知事は安倍晋三首相との会談でオバマ大統領と直接話す機会を与えてほしいと要請した。だが首相はこれに答えず、会談後に菅義偉官房長官は「外交は中央政府間で協議すべきだ」と要望を一蹴した。

 1995年の事件の際、県内の日米地位協定改定要求の高まりに対し、当時の河野洋平外相は「議論が走り過ぎ」と、交渉すらあっさり拒否した。菅氏の発言は、あの時の冷淡さをまざまざと思い起こさせる。
 菅氏の言う「中央政府間の協議」では沖縄に犠牲を強要するだけだったから、大統領との面会を要望したのである。即座の却下は、その犠牲の構図を変えるつもりがないと言うに等しい。
 沖縄に犠牲を強いるのは誰か。米国との意見交換を仲介し、沖縄の民意が実現するよう動くべきはずなのに、仲介どころか積極的に阻んでいる日本政府ではないか。
 会談では、首相に対する発言としては極めて異例の、厳しい文言が並んだ。翁長知事はこう述べた。
 「安倍内閣は『できることは全てやる』と枕ことばのように言うが、『できないことは全てやらない』という意味にしか聞こえない」
 「基地問題に関して『県民に寄り添う』とも言うが、そばにいたとは一度も感じられない」
 しかしこの、かつて例のない発言が何の違和感もなく、言って当然の言葉に聞こえる。それが県民大多数の感覚だろう。
 広島に行く大統領と面会し、基地集中の是正を直接訴える貴重な機会すら、あっさり拒否される。知事は「今の地位協定の下では日本の独立は神話だ」と協定見直しも求めたが、それもゼロ回答だった。知事が言った通り、県民の思いはもはや「心の中に押し込められないくらい爆発状態」である。
 翁長知事は異例の手厳しい言葉を連ねたが、それでもなお物足りなさを禁じ得ない。大統領との面会要求のほかは地位協定見直しを含めた「実効性ある抜本的対策」を求めたくらいだが、それだけで基地に由来する凶悪事件を根絶できないのは明らかだ。やはり全基地閉鎖要求に踏み込んでほしかった。
 県民は今、憤りを静かにたぎらせている。やり過ごすつもりの政府はいずれ、今回の冷淡な態度を後悔することになるだろう。