<社説>首相「辺野古唯一」 被害者の命をも軽んじた


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 安倍晋三首相が日米首脳会談で、米軍普天間飛行場の移設問題は名護市辺野古への移設が「唯一の解決策との立場は変わらない」との考えを、オバマ大統領にあらためて伝えていた。

 米軍属の男が20歳の女性の遺体を遺棄する痛ましい事件が起きたばかりである。事件は米軍基地あるが故に起きたことに、安倍首相はまだ気付かないのだろうか。
 安倍首相の発言は、女性の死を悼む多くの県民に冷や水を浴びせただけではない。無念の死を遂げた女性の命をも軽んずるものであり、断じて許されるものではない。
 国民の命を守れなかった自らの責任を、安倍首相が重く受け止めているならば、辺野古新基地建設の推進を首脳会談で持ち出すはずはなかろう。事件直後のこの時期に「辺野古が唯一の解決策」と発言したことで、安倍首相の沖縄に対する冷淡な姿勢がさらに鮮明になった。
 安倍首相は「身勝手で卑劣極まりない犯行に、非常に強い憤りを覚える」とオバマ氏に抗議した。憤りがあるのなら、オバマ氏に明確に謝罪するよう求めるべきではなかったか。
 オバマ氏に対し「日本国民の感情をしっかりと受け止めてもらいたい」とも要請したが、安倍首相自身も県民感情を受け止める必要があることを自覚すべきだ。
 安倍首相は米軍再編を前に進めていくためには「沖縄の皆さんの気持ちに真に寄り添う」ことが必要だと述べた。県民の気持ちに「真に寄り添う」のであれば、新基地建設が「唯一の解決策」になるはずがない。県民の気持ちと相反する新基地建設を推し進める。この矛盾を県民に押し付けことはやめるべきだ。
 看過できない発言はまだある。安倍首相は共同記者会見で「日米が深い絆の下に、これからも『希望の同盟』として力を合わせ、地域そして世界の平和と繁栄に貢献をしていく」と述べている。
 20歳の女性の犠牲の上に成り立つ同盟を「希望」と呼ぶ神経が理解できない。女性の「希望」が奪われたことへの配慮さえない。
 翁長雄志知事は政府が繰り返す「法治国家」について「今のありようでは県民を放っておくという意味での『放置国家』と言わざるを得ない」と指摘した。その通りである。安倍首相は反論できまい。