<社説>米兵の免責示談提示 地位協定の改定しかない


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 日米地位協定の欠陥がまた露呈した。

 神奈川県横須賀市で2006年に起きた米兵の男による強盗殺人事件で、米政府が遺族らに対し米兵に「永久の免責」を条件とする示談を申し入れ、遺族らがこれを拒否している。
 日米地位協定の規定で、公務外で事件、事故を起こした米兵本人に支払い能力がない場合、米政府が慰謝料を支払う。米政府が提示した額は男が日本の裁判所に命じられた賠償額の約4割にすぎない。それで免責せよとは到底、納得できない。
 事件は日本で発生した。本来なら米政府は、日本で確定した賠償額を支払うべきだ。もしくは日本政府が合意の上で、米軍を駐留させているのであるから、補償は日米両政府が責任を負うべきだ。
 日米地位協定に伴う民事特別法は、米兵の公務中の犯罪や事故などの不法行為で生じた損害は、日本の国家公務員によるものと同様、日本政府が賠償責任を負うと規定している。公務外の不法行為は基本的に米兵個人が責任を負うが、支払い能力がない場合が多い。そこで米政府が慰謝料を支払うが、今回のように半額に満たない場合、差額は「日本政府が払うよう努力する」よう運用改善することで合意している。しかし、これは努力規定でしかない。
 大切な命を奪われた上に、裁判で確定した賠償額も受け取れない。このように、日米地位協定は被害者側を守らない。運用改善ではなく、米兵の公務外の犯罪や事故は、米政府が全額支払うよう改定すべきだ。一時的に日本政府が全額補償し、それを米政府に請求するように改定する方法もある。
 米軍基地が集中する県内は今回と同様の事例が発生している。例えば06年に沖縄市で発生したタクシー強盗致傷事件の場合、実刑判決を受けた米海兵隊員2人が約2800万円の損害賠償を命じられたが支払わず、米政府が13年に見舞金約200万円の支払いによる示談を提示した。裁判までいかず、米軍側の裁定による額で示談させられている事例は多い。
 刑事事件の身柄引き渡しと同様、公務外の損害賠償問題など日米地位協定は、多くの欠陥を内包している。事件の被害者になっても補償さえ受けられないのではたまらない。一日も早く地位協定を抜本改定するよう日米両政府に求める。