<社説>憲法改正参院選 争点隠しせず是非を問え


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 10日に投開票される参院選で、国の在り方に直結する憲法改正を巡る論戦が低調である。安倍政権が争点化を避けているからだ。

 与党の自公両党は衆院で3分の2の議席を占めている。自民党総裁である安倍晋三首相が目指す改憲への賛同勢力が、参院でも国会発議に必要な3分の2(162議席)を獲得するかが、参院選の焦点だ。安倍首相の悲願である改憲の照準は、戦争放棄をうたう9条の改正に定められているだろう。
 2013年7月の参院選後、安倍政権は特定秘密保護法を制定し、集団的自衛権の行使を容認した。14年12月の衆院選後の15年9月には安保関連法を成立させた。
 立憲主義を揺るがすとの批判を浴びた法規範の大幅変更は、いずれも直前の国政選挙で主要争点にならなかった。
 安倍首相は、選挙期間中は有権者が反発しそうな政策の争点化を避け、選挙に勝つと数の力で押し切るやり方を繰り返してきた。
 参院選後、首相が一気に改憲に突き進む疑念は拭えない。
 改憲について、安倍首相は年頭会見で「参院選でしっかり訴える」と述べ、18年9月までの自民党総裁の「在任中に成し遂げたい」と強い意欲を示していた。
 ところが、参院選公示後、「最大の争点は経済政策だ」と訴え、アベノミクスの成果を前面に押し出している。「票にならない」として改憲論議を封印する戦術は「争点隠し」の批判を免れない。
 「安倍政治」に審判を下す上で、改憲は重要な要素だ。各政党と候補者は正面からその是非を訴えるべきだ。頬かむりは許されない。
 安倍首相を含め、自民党内には大規模災害や他国から攻撃を受けた際、権力を内閣に集中させる緊急事態条項創設を改憲への一里塚にしようとする見解がある。だが、東日本大震災の被災3県の知事と市町村長計42人のうち、9割超が緊急事態条項の必要性を認めていない事実は重い。
 辺野古新基地建設を巡り、安倍政権は埋め立て承認を取り消した翁長雄志知事の権限剥奪を狙った代執行訴訟を起こした。政権の思惑が外れる和解に至ったが、憲法が定める地方自治を掘り崩しかねない強権的手法も憲法との関連で厳しく問われよう。
 改憲の是非は、この国の行く末に決定的な影響を与える。研ぎ澄まされた目で1票を行使したい。