<社説>南シナ海判決 中国は国際秩序を守れ


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 「南シナ海は歴史的にも中国のもの」という主張が明確に否定された。中国は国際秩序を重視し、南シナ海の緊張を高めるような行動は自制すべきだ。

 国連海洋法条約に基づく仲裁裁判所は、中国が南シナ海に独自に引いた境界線「九段線」で囲った海域に歴史的権利があるとの中国の主張は「法的根拠がない」と判断した。中国が建造した人工島の法的根拠にも否定的な見解を示した。南シナ海問題で国際的な司法判断が示されたのは初めてだ。
 南シナ海は豊富な天然資源が眠るとされる海域で、中国、台湾、ベトナム、フィリピンなどが領有権を主張している。無数の岩礁を巡っては第2次世界大戦後、周辺各国が入り乱れて実効支配してきたため、主権が及ぶ地域を明確に線引きすることは難しい。2002年、東南アジア諸国連合(ASEAN)と中国は対立回避のための行動宣言を結んだ。
 だが中国は、九段線を根拠にほぼ全域での管轄権を主張し、実効支配を強めてきた。
 フィリピンは3年前、オランダ・ハーグの仲裁裁判所に仲裁を申し立てた。しかし中国は裁判に参加せず、南シナ海の人工島に3千メートル級の滑走路を造るなど、大規模な埋め立てを始めた。
 海洋法条約は紛争解決策の一つとして仲裁裁判を位置付ける。条約を巡ってはさまざまな解釈を生むあいまいさや、米国が加盟していない問題もあるが、国際的な「海の憲法」の機能を果たしてきた。
 今回の判決に中国は激しく反発し、習近平国家主席は「中国はいかなる主張も受け入れない」と強調した。今後、条約からの脱退も含め、対抗措置を取るとみられる。
 ここで懸念されるのは、「完敗」した中国政府が国民の反発をかわすために、尖閣諸島など東シナ海へ矛先を向けかねないことだ。そうなれば日中の緊張はさらに高まり、双方にとってマイナスしかもたらさない。
 中国が判断に従わないと公言することは、「法の支配」を否定することを意味する。判断を無視すれば中国という国に対する信頼は大きく失墜する。
 国連安全保障理事会の常任理事国でもある中国は、仲裁裁判所の判決を受け入れ、南シナ海に「法の支配」を確立する中心的役割を果たしてほしい。