<社説>遺骨DNA鑑定 対象遺骨を拡大すべきだ


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 沖縄戦の犠牲者とその遺族に対し、国は最大限の責務を果たすべきだ。その観点から収容遺骨のDNA鑑定に取り組んでほしい。

 厚生労働省は、沖縄本島で収容した戦没者の遺骨を遺族の元に返すため、全国の遺族に対しDNA鑑定へ協力を呼び掛けた。費用は全額国負担である。
 身元が分からない遺骨と遺族を結び付けるDNA鑑定を効果的に進めるための事業であり、国の対応は評価はできる。沖縄戦で肉親を失った全国の遺族の要望に応えるものだ。
 鑑定対象となる遺骨を日本兵にとどめてはならない。住民犠牲者の遺骨も遺族の元へ戻すべきである。厚労省は力を尽くしてほしい。鑑定を進めるため、家族を沖縄戦で失った県民の協力も必要だ。
 4人に1人が犠牲になった沖縄では県民の多くが遺族と言える。沖縄戦遺骨収集ボランティア「ガマフヤー」の具志堅隆松代表は県内遺族のDNA鑑定への参加を呼び掛けている。遺族に遺骨を戻す意義を県民全体で理解したい。
 気になる点がある。今回の鑑定対象を、部隊の記録などが残る那覇市真嘉比や西原町幸地など4地域で見つかった遺骨のうち、歯からDNAが抽出された75人分に限定したことだ。厚労省が発掘し、保管している遺骨は600人分である。鑑定対象となるのは、その1割強にすぎない。
 激しい地上戦において部隊の正確な位置を資料で証明するのは困難だ。具志堅氏によると、遺族が認識する戦死場所と遺骨発見場所が大きく異なる事例がほとんどという。鑑定対象の遺骨を地域で限定するのは疑問だ。
 厚労省は頭蓋骨が残る遺骨に限り、歯からDNA献体を採取する方針だ。これでは鑑定対象の遺骨は限定的だ。遺骨収集で出てくる骨は爆発などでバラバラになったものが多いからだ。
 朝鮮戦争戦死者の遺骨鑑定を進める韓国は大腿(だいたい)骨からDNAを採取している。参考にしてほしい。
 遺族に遺骨を戻すためのDNA鑑定ならば、厚労省は対象範囲を限定するのではなく拡大すべきだ。そのことが沖縄戦犠牲者と遺族に対する国の責務を果たすことにつながる。
 DNA鑑定で遺骨の身元が初めて判明したのは2011年のことだ。国の取り組みと遺族の協力を通じて、より多くの遺骨の身元を明らかにし、遺族に届けたい。